注文も出し、値上げの要請も呑んだのに、サプライヤから「生産枠が取れません」と言われることがあります。値上げなら交渉のしようがありますが、生産枠は、会社の力関係や、これまでの信頼関係、今後の取引関係などがあり、手を打つのが難しい場合があります。
2026年9月、海外の航空エンジンの大手が、エンジンの羽根の鋳物のメーカーを、1兆円を大きく超える額で買う契約を結びました。私は、この契約も生産枠の話として読んでいます。足りないのは注文ではなく、作る枠です。その枠は、作れる会社が世界で数社しかない工程にあり、業界をまたいで、多くの場合は先に押さえた順に埋まります。
こんな方におすすめの記事です。
・サプライヤから「生産枠が取れません」と言われた方
・鋳物や鍛造品のように、作れる会社が限られる部品を買っている方
足りないのは注文ではなく、作る枠

航空エンジンの業界には、何年分もの注文が積み上がっています。2025年6月末には、大手の機体メーカーの駐機場に、エンジンの無い機体が数十機並びました。航空エンジンの大手も、2026年7月の決算の説明で、この先の課題は需要より供給だと見ています。
供給が追いついていないのは、溶かした金属を型に流し込んで作る鋳物と、金属をたたいて形を作る鍛造品です。コロナ以降、業界でいちばん解消しにくい詰まりの1つになっています。
中でも難しいのが、タービンの羽根の鋳物です。ろうの模型を使う昔からの鋳造に、最新の技術を重ねて作ります。エンジンの中は羽根の金属が溶ける温度より熱くなり、羽根はその中で溶けずに回り続けなければなりません。新しい設計の羽根では、作ったものの半分以上を捨てることもあるといいます。
作れる主なメーカーは世界に数社です。数十年の投資と専門の知識が必要なため、まねされにくく価格も高いまま。このように作れる会社が世界で数社しかない工程が、いまの航空エンジンのボトルネックの1つです。
ほかの会社に頼めばいいのでは、と思うかもしれません。羽根を作る大手メーカーの1社は、年次報告書に、認定などの決まりのため、製造が止まったときの代わりの供給元は、自社にも客にもすぐには見つからないかもしれない、と書いています。
認定とは、部品を使う会社が、品質を保つために、部品メーカーの工場や製造方法を部品ごとに認めることです。航空エンジンやガスタービンの認定は、取るのに何年もかかることが多く、大事な鋳物のサプライヤを替えれば、認定と製造方法の作り込みはやり直しです。新しく始める会社は、基本の技術と業界の認証をそろえるだけで1年を超えます。
航空エンジンの大手は、サプライヤを会社ごと買う契約を結んだ

先に、人を送り込んだ
サプライヤをすぐには替えられないとき、航空エンジンの大手は、まず調達と技術の人を送りました。2024年の前半、重点を置くサプライヤは、約束した量の半分しか出荷できていませんでした。送った人は、その1年で500人を超えます。
一緒に進めたカイゼンで作る量が5割増えたサプライヤもあり、年の後半には、重点を置くサプライヤへの材料の投入が4分の1を超えて増えました。2025年1月には、出荷が約束した量の9割を超えています。どのサプライヤかは明かしていません。
15年を超えて取引してきた鋳物メーカーを、買う契約
2026年9月の契約で挙げた理由は、民間機のエンジン、整備の部品、防衛の需要に同時に応えるための、鋳物の生産能力への投資です。自社に必要な羽根の数は、2030年までに3割を超えて増える見込みです。人を送って戻せるのは約束した量までで、増える分には生産能力そのものが必要だったと考えられます。
相手は15年を超えて取引してきた精密鋳造の会社で、航空エンジンの大手の改善のやり方も取り入れてきました。売上の約7割はエンジン向け。航空エンジンの大手がいま必要とする羽根の鋳物の4分の1を納めているとされ、羽根を作る、もっと大きなメーカーに何かあったときの保険だ、という話もあります。
買値は、見込んだ効果を入れても、相手が1年に稼ぐ、設備の償却などを引く前の利益の20倍近く。完了は2027年後半の見込みで、規制当局の承認が要ります。完了後は、歩留まりと設備の稼働率を上げて作る量を増やす、と説明しています。
自分の上流を、自分の会社に取り込む
上流の工程を自社に取り込むことを、垂直統合と呼びます。ほかのエンジンメーカーも自前の鋳造工場を建てたり、今の工場を広げたりしていて、羽根の大手メーカーの大口の客にも、羽根の鋳物の炉を自社で持つところがあります。
私は、サプライヤを買い取るのは、その技術が自社の事業に致命的に大事なときか、自社の事業と大きなシナジーを生むときだと思っていました。今回は、貴重な技術を抱えておくことに加えて、生産枠を安定して押さえておく狙いも見えます。相手の鋳物メーカーがほかの客の注文に応えるうちに、航空エンジンの大手への供給が不安定になる。それを防ぐためだと思います。
危うさもあります。相手から買っていたほかのエンジンメーカーが離れるおそれと、独占禁止の審査です。航空エンジンの大手自身も、買うことは解決の一部で、ほかのサプライヤとの取引も引き続き要ると言っています。
羽根の工場を、発電設備と取り合う

部品メーカーが応えるほかの客は、航空の中だけではありません。相手の鋳物メーカーも、売上の約2割は発電設備などの見込みです。ただし航空エンジンの大手は、買う理由に発電設備を挙げていません。
保険の話に出た、もっと大きなメーカーの1つが、年次報告書を書いた羽根の大手メーカーです。ガスタービンの羽根で世界最大と自ら言い、発電用では世界の5割を超えるシェアを持つとしています。主な客は、発電用ガスタービンの大手3社です。航空エンジンと発電用ガスタービンは、中身の技術が近いと考えられます。
このメーカーのガスタービン向けの売上は、2026年4月から6月に、前の年より4割近く増えました。理由は発電の需要、とくにデータセンター向けの天然ガス発電です。ガスタービンの事業は、数年で倍になると見込んでいます。
発電設備の側で詰まっているのは、高温部の羽根と、ローターに使う鍛造品です。ローターや羽根を付けないまま出荷された大型のガスタービンもあるほどです。大型の鍛造品を作れる会社は限られ、その多くがすでに複数のメーカーへ納めているので、サプライヤを足しても、楽にならないことがあります。
羽根の大手メーカーは、今ある工場に場所を空け、発電用ガスタービンの部品か、チタンの鋳物を、先に来た注文から作るそうです。日本に建てた新しい工場も、生産枠はほぼ埋まったといいます。設備を2026年8月に頼んでも、届くのは早くて2028年8月。3年待ちの特殊な設備もあります。
航空エンジンの羽根も作るこの大手メーカーの工場を、航空と発電設備が取り合っている形だと、私は見ています。

生産枠は、先に押さえた順に埋まる
発電用ガスタービンの大手は、何年に何台作るかというガスタービンの生産枠を、電力会社などの客に何年も先まで予約してもらっています。ここでは大手3社を、A社・B社・C社と呼びます。
A社は、受注残とガスタービンの生産枠の予約が積み上がり、納期はおよそ3年です。2026年の年末には、2030年までの分がほぼ売り切れる見込み。客から受け取った前払いで部品メーカーの生産能力までかなり押さえ、2028年の増産に使う鋳物と鍛造品が2027年に届く段取りも見えています。
B社は、大型ガスタービンを作る会社は実質3社と見ていて、ガスタービンの枠を押さえる予約金を受け取る傾向も、変わらないか、むしろ強まっていると感じています。市場を広げているのは、石炭や石油の火力からの転換などと、データセンターを中心とした電力の需要だという見方です。ただし、詰まりそうな工程はほぼ自社で持ち、いまはサプライヤが原因の詰まりは無いそうです。
C社も、一部の製品は納期が3年から4年以上です。半年から9か月前に大きな心配だった鋳物と鍛造品は、だいぶ進んだものの、増産に伴う苦しさがあと数四半期続くと見ています。
では、AIデータセンター向けの需要が、部品メーカーの生産枠を奪っているのでしょうか。A社の場合、2026年春に抱えていた受注残とガスタービンの生産枠の予約のうち、直接データセンター向けは約2割で、残りの約8割は電力会社などの昔からの客です。航空エンジンの大手が必要とする羽根も、2030年までに3割を超えて増える見込みです。
AIだけが生産枠を奪っているのではない。同じ数社の部品メーカーの生産枠を、航空と発電設備が、先に押さえた順に分けている。私は、そう見ています。
作れる会社が少ない工程を見つけ、先に伝える3つの方法
会社ごと買えない買い手には、何ができるのか。航空や発電設備の部品を買っていなくても、使える方法が3つあります。
1. 自分の部品の上流に、作れる会社が少ない工程があるかを書き出す
「生産枠が取れません」と言われたら、まずどの工程の枠が埋まっているのかをサプライヤに聞きます。そのうえで自分の部品を、材料・鋳造や鍛造・熱処理・検査のような工程に分け、工程ごとに次の3つを確かめます。
- 作れる会社が数社しかない
- 客の認定が必要
- 同じ会社が、ほかの業界のメーカーにもすでに納めている
当てはまる数が多い工程ほど、替えるのも足すのも難しくなります。そうした工程は、直接のサプライヤのさらに上流にあることもあります。ローターや羽根の無いまま出荷されたガスタービンは、買う電力会社から見ればその例です。
2. その工程を、ほかのどの業界と取り合っているかを調べる
その工程を担う会社の名前と、その会社のほかの客の業界を、サプライヤに聞きます。上場していれば、決算の説明も読みます。羽根の大手メーカーも、決算の説明で、伸びた業界と新しい工場の埋まり具合を話していました。取り合う相手が伸びている業界なら、生産枠は早く埋まると考えられます。
3. 必要な量を、早く、長い先まで伝える
発電設備の客は、前払いや予約金で何年も先のガスタービンの生産枠を押さえていました。前払いのできない買い手にできるのは、必要な量の見通しを、早く、長い先までサプライヤへ出すことです。出すときは、何の部品がいつどれだけ必要かと、どこまでが確定でどこからが見込みかを分けて書きます。
見通しを出しても、枠が取れるとは限りません。でも、見通しを出さないことには、部品メーカーも本気になってくれないでしょう。
まとめ
生産枠を取りにくくしているのは、力関係や信頼関係だけではありません。作れる会社が世界で数社しかない工程の生産枠そのものが足りず、そこへ航空と発電設備の注文が、多くの場合は先に押さえた順に並んでいます。
「生産枠が取れません」と言われて、打つ手が分からない。3つの方法は、そのときのために、こちらの打つ手を先に持っておく話です。
どこまで先の量を伝えるかは、部品ごとのリードタイムが分からないと決められません。「配属1週間目の教科書」は、見積から検収までの日常業務を手順の順に扱う講座です。リードタイムの管理、遅れの原因の構造、遅れたときの初動も扱っています。見終えれば、どの部品の量をいつまでに伝えるかを、リードタイムから考えられます。
