来月の内示、先週渡した数字から減りました。サプライヤへそう伝えるとき、少し気が重くなります。あの数字で材料をサプライヤが手配してしまっていたなら、なおさら。
内示と確定注文を分けているのは、法的な拘束力の有無だけではないと思っています。確定していない需要の損を、買う側と売る側のどちらがどこまで持つのか。内示は、その取り決めの入口です。線を先に引いてあるかどうかで、動いたあとが変わります。
こんな方におすすめの記事です。
・内示をどこまで信じてサプライヤに手配させてよいのか、判断のよりどころがない方
・数量が減ったときに「お前が出した内示だろう」と言われるのが怖い方
・上から降りてきた数字を、そのまま流している状態が落ち着かない方
内示と確定注文は、何が違うのか

内示は、この先数か月の発注数量の見通しをサプライヤへ伝えるもの。フォーキャストと呼んでも指すものは同じです。対して確定注文には、引き取りの責任が発生します。
教科書も検索の上位も、たいていここで止まります。内示に法的な拘束力は原則としてない。整理は正しい。
ところが実務書には、こうも書かれています。内示分を準備させておきながら発注しなかった場合、内示を発注に応じたものとして扱われることも多々ある、と。相手がもう材料を手配して作り始めたあと、拘束力の有無を議論しても何も決まりません。
分けているのは、拘束力の有無だけではないはずです。確定していない需要の損を、誰がどこまで持つか。内示はその取り決めの入口だと考えています。
内示は動く。動く前提で、どこに線を引くか

内示の数量は変動します。現実には、内示とまったく異なる数量で発注になる場合も多くあります。誰の失敗でもありません。需要の予測である以上そうなるもの。問うべきは、動いたときの損を誰が持つかです。
では内示を取りやめたらどうなるか。
拘束力の話はそこで止まりますが、サプライヤが生産準備に使った費用は消えません。
経済産業省の自動車産業適正取引ガイドラインも、予定より少ない数量で発注を中断せざるをえなくなった場合の生産準備の費用は、発注側が負担することが望ましい、としています。線を引くというのは、この負担の上限を先に決めておくこと。決めずにいると、あとから出てきた金額を、買う側が丸ごと引き受けることになります。
どの品目にその線が要るのかは、2つの軸で見分けられます。1つ目は、その材料が他へ回せるかどうか。他の機種や他の客先に使える汎用材なら、要らなくなってもサプライヤの在庫は次の仕事で消えます。この製品でしか使わない専用材は、要らなくなった瞬間に行き先がなくなる。板厚と材質が標準品なら回せますが、指定の色や指定のメーカーが図面に入ると回せません。
2つ目は、手配にかかる時間が内示の確度が上がるタイミングより長いかどうか。この長短を、以下では短納期・長納期と呼びます。2週間で手に入る材料なら、確定を待ってから動いてもらえばいい。半年かかる材料は、待った時点でもう間に合いません。
相手側の手配期間は品目ごとに出してもらうか、見積の内訳や納期回答から読めます。自分の確度が上がるのは、社内の生産計画が固まる時期です。どこまでを確定注文にし、どこから先を引き取り責任のない参考情報にするか。手配期間の長さに合わせて、品目ごとに決めておきます。
この2軸で、4象限を見てみます。汎用で短納期は、確定まで待てばよい。汎用で長納期は行き先があるぶん傷が浅く、サプライヤが抱える期間と保管の手間だけが残ります。専用で短納期も待てます。本当に悩むのは、専用かつ長納期の1象限だけ。
その1象限で、私は揉めました。設計変更で内示していた部品が要らなくなり、サプライヤはもう専用材を仕込んでいたんです。どこまで引き取り、費用をどう分けるのか。まとまるまでずいぶんかかりました。
原因はサプライヤでも設計部門でもありません。先に決めてあれば、詰めるのは金額の一点だけで済んだはずです。決めていなかったので、何を話し合うのかを決めるところから始まりました。
だから専用かつ長納期の一象限だけ、先に決めます。どこまでの数量を、いつまでに、いくらで引き取るか。内示がどこまで上下に動いても買う側が持つのか、その幅。そして、転用の効かない材料だと双方が分かっている状態にしておく。サプライヤのためではなく、あとで丸ごと持たされないためです。
発注側として、内示をどう出すか

作法は3つ。内示に確定度合いを付ける、下方修正こそ早く伝える、発注が決まったら注文書を後回しにしない。順に見ます。
1つ目。どこまでが確定で、どこからが準確定で、どこからが参考なのか。その3つを、数字と一緒に分けて伝えます。確定度のない内示は、受け取る側には「どこまで動いてよいか分からない数字」でしかありません。ある海外の自動車部品メーカーがサプライヤへ配る手引きでは、~週までに~してよいという目安があります。それより先は参考の数字だと読めます。
2つ目。発注数量が増える話は放っておいても伝わります。減る話は言いにくいので遅れる。遅れた分が、そのままサプライヤの在庫になります。私も一度、内示を下げる連絡が遅れました。数字が固まってから伝えたかったんです。待つあいだもサプライヤは動き続けていた。訪問して積み上がった在庫を見たときのことは、今も覚えています。
3つ目。取適法は、発注に当たって発注内容を書面か電子メールなどで明示することを、発注側の義務としています。公正取引委員会も、発注から契約締結まで日数を要するなら発注後直ちに明示したとはいえない、と答えています。
社内では発注が決まっているのに紙が出ていない間、動き続けるのはサプライヤだけ。誰がどこまで損を持つのかは、宙に浮いたままです。社内の手続きが全部終わってから注文書、では遅い。
2026年1月からは相手の承諾がなくてもメールで足ります。適用されるかは取引の内容と、発注側とサプライヤそれぞれの会社の規模で決まります。対象かどうかはリーフレットで確かめてください。
まとめ
内示は、予測を伝える紙ではありません。確定していない需要の損を、誰がどこまで持つかを決める、取り決めの入口です。
- 担当品目を、転用できるかと手配リードタイムの2軸で仕分ける
- 専用かつ長納期の一象限だけ、引き取る数量・期限・費用と変動の幅を先に決める
- 内示を出すときは確定度合いを付け、下方修正こそ早く伝える
日本ではこのあたりがあいまいで、法的拘束力のない内示にもかかわらず、「内示を出しているのに、なぜ納期対応できないのか?」と顧客から問われることがあります。一方で、発注数量が減少した場合は、「あくまで内示であり、発注確約ではない。そのため在庫は引き取らない」とも言われる場合もあります。発注側が非常に強い場合に起こりがちで、優越的地位の乱用になりかねません。
内示が動くこと自体は、あなたの失敗ではありません。数字が動いたからではなく、動いたときの持ち分を決めていないとトラブルになります。線を先に引いてあれば、その一言には「決めたとおりにやりましょう」と公平に返せます。
内示と確定注文の線引きは、注文書に何をどう書くかとセットになります。「配属1週間目の教科書」は、注文書と契約書の関係、支払条件の決まり、納期の追い方までを実務の順番どおりに扱う講座です。いま出している数字がどの確定度なのか、そのあとどう発注へつなぐのかが、通しで分かります。
