サーチャージと値上げの見分け方|価格スライドなら相場が下がれば戻る

サーチャージと値上げの見分け方というタイトルと、上向きと下向きの矢印を添えた燃料の滴、コンテナ船、航空券、銅線の巻きを描いたアイキャッチ画像

海外への航空券を予約すると、支払いの画面に、運賃とは別の項目が出てきます。燃油特別付加運賃、燃油サーチャージと呼ばれる追加料金です。部品を買う仕事をしていると、これによく似たお知らせがサプライヤからも届きます。「原材料価格の高騰に伴い、価格の改定をお願いします」。「燃料の追加料金を導入します」。

こうした追加料金(サーチャージ)は、売り手が値上げを通すための口実だと思われがちです。でも、口実とは限りません。中身は、調達の世界で昔から使ってきた価格スライドと同じ考え方なんです。価格スライドは、燃料など特定の要因の価格が変動したら、それに応じて製品の価格も変動させる仕組みです。

本物の価格スライドは、相場が上がれば上がり、下がれば同じ式で下がります。ただ、追加料金には中身が単なる値上げのものも混ざっていて、請求書だけでは見分けがつかないことがあります。だから、お知らせが来たら、問うのは「相場が下がったら、価格は戻るのか」です。

こんな方におすすめの記事です。
・サプライヤから、原材料の高騰に伴う価格改定や、燃料の追加料金のお知らせを受けている方
・その追加料金が、相場に合わせて下にも動くものかを確かめたい方
・銅やアルミ・樹脂のように、原材料が価格の多くを決める部品の仕入れを担当している方、または仕入れの価格を見ている方

この記事でわかること
・調達で昔から使う価格スライドの仕組み
・請求書だけでは見分けられない追加料金があること
・買い手のスキルが、安く買うことから確かめることへ移る理由
・「相場が下がったら、価格は戻るのか」を軸にした5つの問い

目次

調達で昔から使う原材料スライド

切り口をこちらへ向けて並んだ銅の管

銅やアルミのような非鉄金属、樹脂、貴金属やレアメタル。原材料が価格の多くを決める部品では、部品の価格を、原材料の相場に合わせて動かす取り決めを組むことがあります。原材料スライド、あるいは価格スライドと呼びます。私も、ごく普通に決めてきました。

「この仕組みを採用しましょう」と言い出すのは、たいていサプライヤのほうからです。価格の指標は、誰でも見られる公開された相場にすることが多いです。見直しは3か月ごとや半年ごとなどで、その期間の相場の平均などを採用したりします。相場が上がれば製品価格も上がり、相場が下がれば、同じ式で製品価格も下がります。

誰が得をする仕組みなのでしょうか。

売り手は、原材料が値上がりしても、自分でかぶらずに済みます。買い手は、相場が下がれば価格が戻ってくる。どちらか一方の得ではありません。公平な仕組みです。

ただ、材料が急に上がっている時期には、困惑しました。材料の値上がりは、必ず製品価格の値上げにつながります。値上げを抑える手が無いんです。一方で、担当者個人で見れば、そのつどの価格交渉が要らなくなります。そこは、売り手にも買い手にもメリットがあります。

価格スライドと同じ考え方は、燃油サーチャージにも法律にもある

空港で搭乗橋につながった旅客機と、その横に止まる給油車

同じ考え方は、名前を変えて、あちこちで使われています。海上運賃には、例えば船の燃料の値段に合わせて動く追加料金があります。FAF と呼ばれるものです。電気料金にも、燃料費調整という仕組みがあります。燃料の値段や為替の動きを料金に反映させるもので、始まったのは1996年です。

国内の大手の航空会社の燃油サーチャージを、日本から欧州や北米への片道で見てみます。2026年の5月から6月に買った航空券に比べて、7月から8月に買った分は上がり、9月から10月に買った分は下がりました。3つの時期とも、国の補助を踏まえて軽くした額です。

この額は、航空燃料の相場の平均に為替を掛けた値で決まり、その値が一定の水準を下回ると、燃油サーチャージは付かなくなります。本物の価格スライドは、上にも下にも動くんです。

法律も、価格が動く前提に変わりました。2024年12月に施行された改正建設業法で、工事の契約には、資材の価格が変わったときに代金をどう変えるか、その額の決め方を書くことになりました。

2026年1月には、下請法が取適法に変わっています。この法律の対象になる取引では、売り手が代金の話し合いを求めたのに、買い手が応じなかったり、必要な説明をしなかったりして、一方的に代金を決めたり据え置いたりすることが禁じられました。また、買い手には、コストの上昇に応じて価格を変えなくてもいいのかを、売り手に確かめることが求められています。

こうした法律の変化もあり、昔に比べて売り手の力が強くなり、価格に弾力性が生まれて、世の中はだんだん公平になってきたと感じます。

請求書だけでは見分けられない海運の追加料金

白い航跡を引いて海を進む、コンテナを積んだ貨物船を上から写した写真

ところが、上にも下にも動くのか、請求書だけでは見分けられないものも混ざってきました。その1つが、海運の追加料金です。部品を輸入していれば、運賃を通して仕入れの費用にも入ってきます。

海運では2026年、半年で3回、追加料金の波が来ています。混乱が起きるたびに、追加料金が新しい項目として、短い予告で、契約の途中に適用されるようになりました。しかも、主要な航路の船の量は過去最高で、供給は足りていました。それでも、繁忙期の追加料金のお知らせは、出続けたんです。

追加料金の中身は、アフリカの喜望峰を回って燃料を余計に使うような、本当に原価が増えた分のこともあります。昔なら運賃の値上げと呼んでいた、値付けの判断のこともあります。

燃料費を回収するためには、前から FAF があります。荷主(船で荷物を送る側の会社)の国際団体は、2026年の緊急の燃料の追加料金が、この FAF を通してではなく、その上に重ねて付いたと指摘しました。燃料費を二重払いしているのではないか、という疑問が残ります。

安く買うスキルから、確かめるスキルへ

見分けにくい追加料金が増えたからといって、昔のように、とにかく安く買えばよいわけではありません。

以前は、相場より安く買うのがバイヤーの腕だと思っていました。インフレの時代に入って、物の値段が上がるのが当たり前になりました。政府も、上がった原価を価格に乗せる価格転嫁を進めて、働く人の賃金を上げる方針を出しています。

無茶な値下げの要請や据え置きは、もうできません。売り手が我慢して価格を抑える時代は、終わったんです。代わりに求められているのは、これまで以上に相場を確かめて、適正な価格で買うこと。ただ、サプライヤの言い値で買うという意味ではありません。追加料金には、中身が単なる値上げのものも混ざっているからです。安く買うスキルから、確かめるスキルへ。

発表額は最初の言い値、下げるときも同じ式か

発表された額は、最初の言い値

その確かめ方の手がかりがあります。同じ航路の同じ燃料の追加料金でも、市場の安いところと高いところで何倍もの幅があります。ある航路では、多額の繁忙期の追加料金が広く発表されました。それでも、かなりの割合の荷主が交渉して、取り下げか値下げをしてもらい、言われたとおりには払っていませんでした。

海上運賃のデータを扱う会社が荷主と交わした追加料金の話し合いのうち、荷主が船会社に交渉したり、要求を押し返したりしていたものは、2024年の紅海での危機のときは約4分の1でした。2026年は、多いときでほぼ半分です。

発表された額は最初の言い値です。どこに着地するかは、価格交渉と、その幅が荷主に見えているかどうかで決まります。

燃料の値段が下がったら、お金は戻るのか

こうした価格交渉で、荷主が一番有効だと挙げた問いがあります。「燃料の値段がもし明日下がったら、そのお金は戻ってくるのか」。本当の原価の回収であれば、上にも下にも動きます。上がるときしか動かない追加料金は値付けの判断で、通常の運賃と同じように、相場を根拠に話し合うものです。

下がったときも同じ式で下がるかを問う

ここで、価格スライドの話に戻ります。価格スライドを取り決めるときは、相場が下がったときも同じ式で下げてもらえるのかを問います。この答えが決まっていないものは、価格スライドではありません。値上げとして話し合うものです。値上げとして話し合うときに問うのは、その額が増えた費用に見合っているか、その根拠が示されているか、です。

追加料金のお知らせが来たら見る5つの問い

では、追加料金のお知らせが来たら、何を見ればよいのでしょうか。問いは5つです。

お知らせが来たら、この5つを問う
  1. 何に合わせて動いているか。それは自分でも確認できる相場か。計算の方法を示してもらえるか。価格スライドなら、どの相場を使って、何か月ごとに見直すかまで、取り決めに書きます。
  2. 下がったら戻るのか。上がるときだけ追加されて、下がったら還元は無し。それは価格スライドではありません。
  3. 適用を終了する日はあるのか。緊急の措置として付いた追加料金なら、いつまで付くかが決まっているか。海上運賃のデータを扱う会社は、適用を終了する日の無い緊急措置を「同情を引く名前を付けた値上げ」と呼んでいます。
  4. すでに払っている項目と重なっていないか。新しい追加料金が、今ある燃料の追加料金や価格スライドに、重ねて付いていないか。
  5. 申し入れられた額を、そのまま払う額だと思っていないか。相場の動きと比べてから受け入れます。受け入れたものは、根拠と適用を終了する日を一緒に記録して、次の話し合いの材料にします。

まとめ:相場が下がったら、価格は戻るか

原材料が上がるときも下がるときも同じ式で動く価格スライドは、調達では昔からある公平な仕組みです。その考え方は、航空券や電気料金、そして法律にまで広がってきたと感じます。一方で、中身が単なる値上げのものも混ざっています。だから、安く買うスキルに代わって、追加料金が妥当かどうかを確かめるスキルが要るんです。

航空券の燃油サーチャージの項目にも、サプライヤから届く原材料高騰のお知らせにも、相場が下がったら価格が戻るかを、問うてみてください。本物の価格スライドは、上にも下にも動きます。

値上げとして話し合うと決めた追加料金は、そこからが交渉です。相場の数字があっても、サプライヤへどう切り出すかで迷うことがあります。Udemy講座「資材調達コスト削減交渉術」で扱うのは、交渉前の準備から実際のやりとりまで。言われた額をそのまま受けるのでも、ただ安くしてほしいと頼むのでもなく、相場を根拠に話を始められるようになります。

この記事を書いた人

大手電機メーカーの現役バイヤー(調達歴20年超)。中小企業診断士。Udemy講師。現場の実務と経営の視点で、資材調達の「なぜ?」を解き明かします。

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