システムの見積書が、資材調達の机に回ってくるようになりました。部品を買ってきた部署が、業務ソフトの発注まで見る。技術はIT部門、価格は調達という流れです。
私も最初は歯が立ちませんでした。届いた総額を見て、高い気がする。けれど、なぜその金額なのかを説明できない。言えないまま社内へ運びました。
高いと言えないのは、あなたの目が甘いからではありません。比べる土台が無いからです。その土台は、買い手の側で作れます。
こんな方におすすめの記事です。
・見積が高い気がするけれど、根拠を示せない方
・見積書のどこを見ればいいのか分からない方
・SIerが何をする会社か、あいまいなままの方
SIerとは何をする会社で、その見積はどう作られるのか

SIerは、システムの企画から開発、運用までをまとめて請け負う会社です。元請けが全部を自社で作るわけではありません。下請けの会社が何段か連なり、この段の重なりが、あとで金額の話に出てきます。
見積の金額は、単価と工数の掛け算です。工数とは、何人が何ヶ月かかるかを数えた量。1人が1ヶ月働く分を1人月と呼びます。
以前、営業の方に「御社の社員が何人で作るのですか」と聞いて、歯切れの悪い答えが返ってきました。理由は二つ。作る人が全員その会社の社員とは限らないこと。何人でやるかの前提が、相手の中でも固まっていないことです。
単価も会社で違います。ただ、何倍も開くことはめったにない。総額が倍以上違うときは、工数の置き方が違っています。
部品の見積とシステムの見積は、ここが決定的に違う
部品の見積で私が最初に見るのは総額ではありません。材料費、加工費、管理費と利益に割り、相場から外れている費目を探します。どこが高いのかを名指しできれば、そこが交渉の入口。
同じ方法でシステムの見積を見たら、どうなるか。
手が止まります。ほとんど人件費の一本だけなので、「この費目が相場より高い」という言い方を作れないからです。
部品は図面と数量と納期が確定してから見積を取るので、3社に同じ紙を配れます。システムは、何をどこまで作るのかが決まらないうちに値段を出させる。決まっていない部分は各社が自分なりの前提で埋めます。
見積の精度は、決まっている度合いで決まります。構想の段階の見積の幅は、実際の4分の1から4倍。この幅は時間をかけても縮まらず、「これはやらない」と決めた分だけ金額は下がります。
「これで全部込みですか」と各社に聞いたときは、どこも「込みです」と答えました。中身を確かめると、込みの範囲は会社ごとにばらばら。金額を並べても、比較は成立しません。安く見える見積があったら、段取りが上手いのか、前提を狭く取っているだけなのか。そこを確かめてから比べます。
高く見える金額には、何が乗っているのか

相手の構造で決まる分
システム開発の仕事は、元請けが受けて下へ流れ、各段で管理の手間と利益が乗ります。公正取引委員会は2022年の実態調査でこの業界を多重下請構造と呼び、必要と思えない「中抜き」の事業者がいると感じたことがある、という回答が全体の25.9パーセントあったと報告しました。段が重なる商流が本当にあることの裏づけです。
ただ、段が重なること自体は、どの会社に頼んでもついてきます。会社ごとの金額差を作っているのは、ここではありません。
こちらの決め方で動く分
決まっていない部分は、相手にとって読めない部分。読めない分は金額に織り込まれます。
社内のIT部門と利用部門が「この仕様も欲しい」と言い続け、見積を取り直すたびに金額がふくらんだことがあります。
期間を短くしてほしいと頼んだこともあります。納期を詰めれば金額が上がった。短い期間に同じ量を押し込むには人を増やすしかなく、連絡と調整の手間も増えるからです。
旭川医科大学とNTT東日本が争った電子カルテの裁判では、仕様を変えないと合意したあとも追加の要望が出続けました。札幌高裁は、発注者の側にも、自分の担当の作業をやり切り、決めたことを覆して開発を止めないという協力の義務があるとし、大学側に14億円台の支払いを命じています。
いくら値切っても、外注構造の数や各外注先の取り分の仕組みは変わらない。先に減らせるのはこちらの仕様の決め方の側で、そこを減らすほうが金額に出ます。
少しでも安くするために、発注する側ができること

1つめ。見積を頼む前に、社内で要るものと要らないものを分けます。私はいちど逆をやりました。全部の要望を載せたまま最初の見積を取り、金額に驚いてから削り始めて、手戻りが増えただけ。
2つめ。相手に出させるものは2種類あります。入っているものの前提と、入っていないものの一覧です。前者は、何人が何ヶ月どの工程に入るのか。「その数はどこから出したのですか」と確かめると、相手の中で固まっていない箇所が浮かびます。後者は、データの移し替えや操作説明会、稼働後の保守と運用あたり。「全部込みですか」と聞くより外しにくくなります。
3つめ。予算は、隠すより渡したほうがいい場面があります。部品調達なら、手の内は明かさないのが定石ですよね。システムでは同じ要件を叶える作り方が何通りもあり、予算が見えないと、売り手はいちばん重い作りで見積を出してきます。上限と優先順位を先に渡すほうが、現実的な線に落ち着くことが多い。もちろん、上限いっぱいで返ってくることもあります。
同じ調査では、答えた事業者の15.7パーセントが、買いたたきに当たると感じる経験をしたと述べています。売り手の側から見れば、こちらの値下げ要求もその一つに数えられているかもしれません。発注側が強いほど、優越的地位の濫用になりかねない。前提をそろえて工数を減らすやり方なら、この危険を踏みません。
まとめ
見積が高く見えるとき、原因は相手が大きな利益を取っているとは限りません。まだ決まっていないことの多さが、そのまま値段に乗っています。だから安くする第一手は、値切りではなく、決まっていないことを減らすこと。
高いかどうかを言うには、比べる土台が要ります。部品なら最初からあったその土台を、システムでは買い手が自分で作る。前提をそろえてから比べる姿勢は、そのまま使えます。
金額の中身を自分の言葉で説明できれば、IT部門にも上司にも、調達として向き合えます。
言い値をそのまま社内へ展開することになるのは、値段の見方の順番が手の内に入っていないからかもしれません。部品で身につけたその姿勢を、次はシステムへ向ける番。Udemy講座「資材調達コスト削減交渉術」では、価格の根拠の作り方から売り手との詰め方までを、現場で使う順に組み立てています。次に見積が回ってきたとき、どこから聞けばいいかが分かった状態で机に向かえます。
