何においても慎重な私の会社にも、今年、生成AIサービスがいくつか導入されました。自分の席でAIを使うと、作業が前より早く終わります。時間が浮きました。
ところが数か月たって、浮いた時間が4つの仕事で埋まっていたと気づきました。溜まっていた別の仕事、新しく頼まれた仕事、頼まれていないのに自分で足した仕事、同じ仕事をもっと丁寧にやること。多かったのは前の2つです。全部ほかの仕事に回ってしまったと思い、驚き、そして困りました。
AIを使った分だけ早く帰れると期待したのに、仕事は減らない。浮いたはずの時間は、なぜ手元に残らないのでしょうか。
こんな方におすすめの記事です。
・会社にAIが入ったのに、仕事が減らないと感じている方
・自分のAIの使い方が悪いのかと迷っている調達・購買の担当者
AIで浮いた時間は労働時間の数%で、その大半は別の仕事へ戻る
AIを使っていない人も含めた米国の働く人全体の労働時間のうち、AIが手伝った時間は約6%、浮いた時間は約2%でした(本人の申告)。仕事でAIを使う人は2年足らずで約28%から約39%へ増えましたが、浮いた時間の伸びは約1.6%から約2.2%です。
日本の全国の正社員3,000人の調査では、AIを使う人の作業時間の短縮は週26分ほどでした。週40時間に直すと約1%で、短縮の大きいIT・開発の仕事でも約2%です。実際に業務時間が減った人は、使う人の約25%にとどまります。
デンマークの研究では、使った人の申告で約3%、記録された賃金と労働時間には2%を超える変化が見られませんでした。測り方で数字は変わりますが、3つの資料は数%で重なります。
浮いた数%の行き先を尋ねたデンマークの研究では、使った人の85%が別の仕事に回したと答え、休憩や自分の時間に回した人は1割に届きません。日本の調査では、時間が減った人の浮いた時間のうち6割が仕事に戻っています。
行き先の決まっていない時間は、仕事が埋める

15か国の約1万7千人に、週に数時間浮いたら何をするかを尋ねた調査があります。望む使い方は仕事以外のことと学びでしたが、実際に浮いた時間が使われると見込まれる先は、管理の仕事と今の仕事の上積みでした。
望みと見込みが食い違うのは、浮いた時間の行き先を、本人も会社もまだ決めていないからだと考えられます。会社に対して、行き先を先に決めておくよう勧める調査もあります。
1955年、英国の雑誌エコノミストの論説は、「よく言われること」として最初にこう書きました。仕事は、使える時間いっぱいまで膨らむ。今はパーキンソンの法則と呼ばれる一文です。論説の中で、暇のある老婦人は、はがき1枚を出すのに丸一日かけます。忙しい人なら3分の仕事です。
AIで浮いた時間も、行き先の決まっていない時間を仕事が埋めたのだと私は考えています。日本の調査では、仕事に戻った時間の75%が日常の業務でした。事務の職場では、前は手が回らなかった業務や雑務の片付けへ向かっています。冒頭の「溜まっていた別の仕事」にあたり、調達の職場も近いと考えられます。
デンマークの研究では同じ作業にもっと時間をかけた人も約30%いて、冒頭の「もっと丁寧に」は、はがきの話と同じ形です。
AIは手直しという仕事を作り、人は頼まれていない仕事を自分で足す

浮いた時間を埋めるものは、冒頭の4つのほかに、AIが作る手直しもあります。
AIが作る手直し
日本の600人の調査では、AIを使う人の9割が出力を手直ししていました。AIで残業が減った人は26%、増えた人も13%います。増えた理由の1番目は出力を使える水準まで整える工程、2番目は中身が正しいかを確かめる工程でした。
なお、AIをよく使う人ほど残業が長い点を、正社員3,000人の調査は、もともと残業の長い人に多く使われている表れと読んでいます。デンマークの研究でも、使った人の12%でAIのせいで新しい仕事が増え、その中には出力の点検が入ります。
人のAIの成果物を、別の人が直すこともあります。見た目は整っているのに中身が薄いAIの成果物に、米国の人材育成の会社と大学の研究室がワークスロップという名前を付けました。その調査では、米国のフルタイムのデスクワークの人の4割が先月これを受け取り、1件を片付けるのに平均2時間かかっていました。
頼まれていないのに足す仕事
もう1つは、自分で足す仕事です。米国の技術系の会社1社を8か月調べた研究では、AIを使い始めた社員が、速く働き、仕事の範囲を広げ、1日の仕事の時間を延ばしていました。頼まれていないのにそうする場面が多く、冒頭の「自分で足した仕事」と同じ動きです。
1865年、英国の経済学者が石炭の本に、燃料を節約すれば消費はかえって増えると書きました。のちにジェボンズのパラドックスと呼ばれる話です。燃料を働く時間に置き換えるのは私の見方ですが、速くなった分だけ、人はもっとやってしまうのだと思います。
会社は、人を増やさずに期待を上げている
では、手直しや自分で足した仕事まで含めて、速くなった分は会社からどう見えているのか。11か国の1万6千人を超える人の調査で、AIで効率が上がったと答えたのは、社長の8割、部下を持たない社員の5割でした。
手直しや自分で足した仕事は上から見えにくく、差の一部はそこから来ていると考えられます。そして期待を決めるのは、効率が上がったと見ている上の側です。
調達の担当者を測った調査は見つからなかったので、ここからは幹部の答えとほかの職種の調査からの推測です。大企業の調達の幹部160人のうち6割が、コスト削減の期待を前年より上げられ、7割がチームの人手に制約があると答えました。人を増やしているのは2割です。
調達の業務量は2026年に8%増え、人も予算も減るという見込みもあります。ドイツ語圏の調達の幹部への聞き取りでは、時間が無いために仕入先の値上げがそのまま通っている、という話が繰り返し出ました。
会社は人を増やさずに期待を上げ、速く終わらせた人のところに次の仕事が回ってきます。冒頭の「新しく頼まれた仕事」も、この流れの中にあると考えられます。ただ、この流れはAIに限りません。11か国の調査でも、この2年で負担が大きく増えた人は、回答者全体の62%です。その流れにAIが入ってきた、と私は見ています。
本人に戻ったと見られる時間は、自分だけで決められる作業から出ていた
では、自分で決められる部分は、どこにあるのか。大企業66社の7千人あまりから、AIを配る人を無作為に選んで半年比べた実験があります。後半の3か月、使った人のメールの時間は週2時間減り、配られた人全体でも定時の外で働く時間が週15分ほど減りました。論文は、浮いた時間の一部が本人に戻ったと見ています。

一方、会議と文書の時間ははっきりとは変わりませんでした。メールは自分一人で片付け方を決められるが、会議や文書は同僚と合わせて新しい決まりを作らないと変わらない、というのが論文の説明です。
浮いた時間を手元に残すやり方3つ
ここでいう「手元に残す」は、浮いた時間の行き先を、仕事が埋める前に自分で決めておくことです。決められるのは、実験で時間が本人に戻ったのと同じ、自分だけで決められるところです。

1. 手直しまで含めて、実際に時間の減る作業を任せる
任せるなら、メールのように片付け方を自分だけで決められる作業からです。残業が増えた理由の1番目は出力を整える工程だったので、手直しまで含めて実際に時間が減るかを見て任せ、手直しの時間ははじめから見積もりに入れておきます。
2. 浮いた時間の行き先を、割合で先に決める
浮いた時間の割り振りには、自分で決められる範囲があります。決めないでおくと、先の調査の見込みどおり、管理の仕事と今の仕事の上積みが埋めていきます。私は、浮いた時間の少なくとも2割を、改善や新しいことを探す時間に回すと決めました。
3. 自分で足す仕事を、仕組みづくりへ向ける
溜まっていた仕事と新しく頼まれた仕事は、自分の意思に関係なく向こうからやってきます。行き先を自分で選べるのは、頼まれていないのに自分で足す仕事のほうです。その行き先を、毎回の手順と判断の決まりを書き出してAIに渡せる形にする、仕組みづくりへ向けます。
私は、よく作る資料をひな形にしました。仕組みができると次からの作業がまた速くなり、働く人にも会社にも得になります。速くなった分も、2つ目の割合に乗せます。
ここからは、3つのやり方とは別の、会社の側から見た話です。AIで成果が出て生産性も上がった次に要るのは、その成果を働く人の評価と報酬に結び付ける仕組みです。仕組みが整うと、働く人が自分からAIを当たり前に使うようになります。浮いた時間を仕組みづくりに回す人が増えるほど、会社の生産性もさらに上がっていくと、私は考えています。
まとめ
浮いた時間が手元に残らないのは、AIの使い方が悪いからではなく、行き先の決まっていない時間を仕事が埋めるからだと私は考えています。ただ、66社の実験では、片付け方を自分だけで決められる作業から出た時間の一部が、本人に戻ったと見られます。
今年、自分の席で浮いた時間は、全部ほかの仕事に回ってしまったと思いました。でも、全部ではありませんでした。
仕組みづくりは、毎回の手順と判断の決まりを書き出すところから始まります。ただ、見積から検収までの流れと、どこで何を判断するかは、毎日こなしていても言葉にしないまま回しがちです。「配属1週間目の教科書」は、見積から検収までの日常業務を、順を追って自分の手で回せるように扱う講座です。見終えれば、自分の仕事の手順と判断の決まりを、自分で書き出せるようになります。
