値上げ交渉が通らない営業担当者へ:調達が社内で見ている値上げを通す材料

値上げが通らない売り手へ、調達が社内で見ている材料を示した図

値上げをお願いしても「検討します」で止まったまま、気づけば半年。よく聞く話です。ただ、担当者があなたを嫌っているわけでも、意地悪をしているわけでもありません。

値上げが通るかどうかも、どれだけ待たされるかも、分けているのは頼み方のうまさやこれまでのコミュニケーションだけではないと思っています。調達の担当者が社内で値上げを認めてもらうための材料を、あなたが渡せているかどうか。そこでも大きく決まります。

私は買う側、つまりあなたの交渉相手にあたる側にいます。今日はその内側の話をします。

こんな方におすすめの記事です。
・値上げをお願いしても「検討します」で流されてしまう方
・何をどう説明すれば値上げが認められるのか、見当がつかない方
・値上げを切り出すと取引を切られそうで、言い出せない方

この記事でわかること
・調達の担当者が、その場で値上げを決められない理由
・調達の社内で通る「材料」の形
・2026年から始まった取適法が、売り手の後ろ盾になること

目次

調達は値上げを断りたいのではない。社内で通せないだけ

値上げの要請をまとめた書類に、社内で承認を得るためのペンを入れている手元

そもそも調達は、値上げの要請を何で測っているのか。率ではありません。買う側が見ているのは、年間の負担額です。

単価が10円上がるだけでも、年に何十万個も使う部品なら、金額はあっという間に担当者の決裁枠、つまりそこを超えたら上位の承認が要る線を超えます。その場で「わかりました」とは言えない。

調達の成績は、前の年よりいくら下げられたかで測られます。値上げを認めても、担当者の点数には一円も足されません。しかも一度上げた単価は、そう簡単には元に戻せない。同じ理由が通るなら、他の取引先からも同じ話が来ます。慎重にならざるを得ないわけです。

裏を返せば、認めた理由を社内へ説明できる材料さえあれば、担当者は動けます

ただ、慎重であることと、取引を切りたがっていることは違います。取引先を替えるには、供給元として認め直す手続きがあり、図面や金型を再製作し、品質を一から作り直す必要があります。買う側にとってもかなり面倒です。だから、値上げを言ってきたという一点だけで取引先を外すという判断は、買う側の社内ではまず通りません。

相見積もりの本当の意味

相見積もりを取っているようだと聞くと、「取引を切られる」と受け取る方が多いようです。でも実際は、なぜ御社から買い続けるのかを社内へ説明するために、比べた記録が要るだけ、ということが少なくありません。

取引先から受けた値上げの要請を私が社内へ上げるときも、はっきり差が出ました。「(漠然と)原材料が上がったので」だけの要請は、認められるまでにずいぶん時間がかかった。どの材料が、いつから、何を根拠に、どれだけ上がったのかを示せた要請は、そこが速かったんです。

少なくとも私が扱った範囲でいえば、根拠の具体性が分けたのは、通るか通らないかより先に、認められるまでの時間でした。そしてその間ずっと、売り手の利益は削られたままになります。

中小企業庁の調査でも、値上げの根拠や証拠資料の提示を求められて非常に時間がかかった、という受注側の声が挙がっています。必ずしも断りたいから止まっているわけではありません。社内で説明する材料がないと、担当者は動けないだけです。

調達が本当に見ているのは「社内の関係者に見せられる根拠」

値上げの明細が並んだ書類を、電卓とペンで一行ずつ計算し直している手元

あの「検討します」の裏側では、何が起きているのか。

あれは断りの遠回しな言い方とは限りません。

多くは、社内へ回す材料が足りなくて止まっている状態です。稟議、つまり社内で承認をもらって回す手続きに添える根拠資料がない。

ここは聞いてしまっていいと思います。「社内で回していただくのに、あと何の資料があればよろしいですか」。踏み込みすぎではないかと心配されるかもしれませんが、担当者からすると、むしろ助かることのほうが多いと思います。

では、何を渡せばいいのか。「一律で10%上げてください」という率だけの申し入れでは、担当者は動けません。

原因から、あなたが示す1個あたりの増加額へ。電気代がいつからどれだけ上がって、その結果1個あたり何円増えるのか。しかも担当者が手を加えず、そのまま社内へ回せる形で。作り直しが必要な資料は、その作り直しがされないまま止まります。

そして、買う側は受け取った数字をまず自分で計算し直します。仮に原価の1割が電気代の製品なら、電気代が3割上がっても、原価が増える分は3%ほど。値上げ幅に直しても、その程度にしかなりません。過去の見積の内訳や似た品物の相場から、こちらもおおよその原価の姿は持っているからです。ここに10%の要請が来ると、私は社内で守れない。

だから、同じ計算を先にご自分でやってみてください。数字が合わない要請は、担当者のところで止まります。

もちろん、こちらの見立てが外れていることもあります。電気代が原価の3割を占める製品なら、そこだけ示してもらえれば話は早い。

出すのは差額の明細だけでいい

とはいえ、だから原価を全部見せろ、という話ではありません。時間あたりの加工賃や利益率まで開示すると、そのレートは高い、この工程はもっと短くできるはずだ、と逆に値引きの材料にされます。出すのは、今回動いた費目の差額の明細だけで十分です。

根拠は、買う側が自分で確かめられる公表データに置いてください。市況や電力の単価表など、後から追える数字です。

賃上げ分をどう価格へ反映するかについて国が出している指針でも、買う側が根拠資料を求めるなら公表資料に基づくものとする、としています。あわせて、歩留まりの安定や納期の融通といった価格以外の価値も数字や事実で添えてもらえると、担当者は社内で戦えます。

他社でもすぐ作れる品物や、取引額の小さい取引では、材料をそろえても厳しい場面はあります。何を重く見るかも会社によって違う。それでも分けているのは、金額の大きさではありません。担当者が社内で戦える材料が手元にあるかどうかです。

2026年の取適法が、売り手の後ろ盾になる

取引の書類と法律の本を前に、価格の協議について確かめている場面

先に断っておくと、これは根拠をそろえた売り手のための後ろ盾です。法律で相手を席に着かせることはできても、金額を決めるのはあなたが渡す材料のほうです。

2026年1月1日に改正法が施行され、下請法は取適法になりました。禁止事項に加わったものの一つが「協議に応じない一方的な代金決定」です。価格協議を求められたのに応じない、必要な説明をしないまま代金を決める。これが明確に禁じられました。

自分の取引が対象か確かめる

なお、適用されるかどうかは取引の内容と、売り手と買い手の会社の規模の区分で決まります。自分の取引が当てはまるかは、公正取引委員会のリーフレットで確かめてみてください。

次の申し入れまでにやる3つ

  • 値上げの理由を1枚にする。どの材料が、いつから、何を根拠に、どれだけ上がって、1個あたり何円増えるのか。率だけではなく増加額で書く
  • 社内へ回すのにあと何の資料が要るのかを、担当者に直接聞く
  • 根拠は、買う側が自分で確かめられる公表データに置く。取適法と協議の場は、最後の後ろ盾として残しておく

値上げは、お願いする行為ではなく、相手の社内を通すための材料を渡す作業。そう捉え直すだけで、次の申し入れはずっと楽になるはずです。

「検討します」で止められたその場で何を返すのか、どの数字をどの順で出せば担当者が社内へ持ち込めるのか。そこまでは、この記事1本には収まりません。

製造業の営業の方に向けて、値上げ交渉と価格転嫁の進め方を最後まで扱った講座を作りました。買う側が値上げをのむ3つの条件、通りやすい値上げと通りにくい値上げの違い、「他社はもっと安い」「上が通らない」「今期は予算がない」への返しを、そのまま口に出せる言い回しで解説しています。見終えるころには、次の申し入れで何をどの順で出すかが決まっているはずです。

この記事を書いた人

大手電機メーカーの現役バイヤー(調達歴20年超)。中小企業診断士。Udemy講師。現場の実務と経営の視点で、資材調達の「なぜ?」を解き明かします。

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