「原材料が上がったので、値上げさせてください」って言われたら、どうしたらいいんですか?
正直、何を見て判断すればいいのか分からなくて…
気持ちはわかるよ。でも、ポテチの袋には世界経済がパンパンに詰まっているんだ。これを針で突いて解剖してみようか?
スーパーで、私は思わずポテトチップスの袋を凝視してしまいました。
「えっ、こんなに少なくて高いの?」
ふと20年前の苦い記憶が蘇りました。
この記事はこんな方におすすめです
・メーカーからの「値上げ要求」に、胃がキリキリしている調達担当者
・「なんで給料は上がらないのに物価だけ上がるんや」と嘆くビジネスパーソン
・日々のニュースと自分の仕事の繋がりが見えず、漠然とした不安を抱えている若手社員
ポテチの袋は、世界経済がパンパンに詰まった経済の風船のようなもの。
これを針で突いて解剖してみましょう。
驚愕のコスト構造:あなたが食べているのは油かもしれない
ポテチが値上がりするのって、じゃがいもが不作だからですよね?
それがね、実はじゃがいも代は全体の20%程度と推定されるよ。
残りの80%以上は別のところにお金がかかってる。電卓叩いてみようか。
ニュースの見出しだけ見ていると、「ポテチの値上げ=じゃがいもの不作」だと信じ込みたくなる気持ちも分かります。
しかし、実のところ、ポテチ1袋の原価において、じゃがいもや油、塩といった「原材料費」が占める割合は、全体の35%程度。
では、残りの6割強は一体どこへ消えているのでしょう。
「コストテーブル」で見る原価の正体
ここで、調達の現場で使う「コストテーブル(原価計算表)」の考え方を使います。
私が過去に分析したスナック菓子の事例で見てみましょう。
実のところ、ポテチ1袋の原価において、原材料費が占める割合は全体の35%程度です。
さらに細かく因数分解してみましょう。
主原料(じゃがいも):約20%
副原料(揚げ油・塩):約15%
【合計:原材料費 35%】
では、残りの65%はどこへ消えているのでしょう?
- 直接労務費:約8%
- 経費(包装材費(あの銀色の袋)や製造エネルギー(電気・ガス)等):約9%
- 物流費(トラック・保管):約10%
- 物流以外の販売費及び一般管理費:約9%
- 営業利益:約9%
- 流通マージン:約20%
あなたがコンビニで150円払ったとき、そのうちの数十円は、じゃがいもと同じくらい「アルミの袋」と「トラックのガソリン代」、そして工場を動かす「電気代」に消えています。
アルミの精錬には大量の電気が使われますし、プラスチックフィルムは原油から作られます。
極論を言えば、私たちはじゃがいもと一緒に、間接的に「エネルギーと石油」を買っているのです。
「主成分以外」を疑え
ここで、「お菓子と仕事(工業製品)は別物だ」と思った方もいるかもしれません。
しかし、資材調達の世界では、ポテチも自動車部品もコストの構造は驚くほど共通しています。
私が担当する部品メーカーの案件で、こんなことがありました。
「金属地金の価格が上がったので5円値上げします」と言ってきました。
コストテーブルを使い、こう切り返しました。
「確かに地金は上がりました。しかし、この部品の重量はわずか10gです。
市況データと照らし合わせると、材料費の上昇分は『1円』のはず。
残りの4円の根拠を説明してください」
・取得方法:商品市況データ(直近3ヶ月)を参照
・計算式:金属地金価格の上昇率(5%)×部品重量(10g)
・結果:実は材料費ベースでは1円の上昇にとどまっているはず
相手は言い淀みました。
実は、地金の上昇を隠れ蓑にして、他のコストアップをどさくさまぎれに転嫁しようとしていたのです。
「主成分(じゃがいもや金属)」以外のコストを可視化すること。
この視点がないと、あなたのお財布も会社の経費も、ザルのように穴が開いたままになってしまいます。
戦慄の連鎖:中東の風がコンビニの棚を揺らすサプライチェーン
ポテトチップスという商品は、サプライチェーン(供給の連鎖)の縮図です。
想像してみてください。中東で政情不安が起き、ホルムズ海峡が封鎖されかけたとします。
すると、原油価格が高騰しますよね。
しかし、ここからの連鎖が恐ろしい。
見えない連鎖が価格を押し上げる
- 原油高で、ナフサ(プラスチック原料)の価格が上がる
- ポテチの袋(フィルム)を作るインキや接着剤の値段が上がる
- 同時に、トラックの軽油代も上がる
- さらに、日本の物流業界を襲う「2024年問題」によるドライバー不足が重なる
特にポテチは、物流のプロにとって「非常に厄介な荷物」です。
なぜなら、「かさばるのに、めちゃくちゃ軽い」からです。
トラックは「重さ」で積載限界が来る前に、「容積(スペース)」が埋まってしまいます。
つまり、ポテチを運ぶトラックは、高い運賃を払って「大量の空気」を運んでいるようなものなのです。
物流費が高騰する今、この「空気の運賃」がポテチの価格を直撃しています。
自分には関係ないと思ってた国際ニュースが、全部この一袋に繋がってるんですね…!
そうなんです。バタフライエフェクトのように、遠い国の出来事が、回り回ってあなたの目の前の150円に直結している。
プロとアマチュアの決定的な差
この連鎖が見えていないと、仕事でも「点」でしか判断できません。
「運賃が上がった?じゃあ違う運送会社探せば?」なんて軽口を叩いてしまう。
でも今は、「運んでもらえるだけマシ」という供給制約の時代です。
ここで思考停止するか、「物流効率を上げるために箱のサイズを変えよう」と提案できるか。ここに、プロとアマチュアの決定的な差が生まれます。
「言われるがまま」に価格を認めてしまった新人バイヤー
誰も最初からこんな分析ができるわけではありません。 ある新人担当者。
サプライヤーのベテラン営業担当者から、「原油が上がって苦しいんです。 5%値上げさせてく ださい」 と頭を下げられました。
その営業担当との関係もよく、 ニュースで原油高が報じられていたので、「大変ですね、 わかりました」と二つ返事で承認してしまったのです。
しかし上司に報告したところ、問い詰められました。
おい、この値上げ、根拠は何だ?
えっ、原油高です
原油は確かに上がったが、為替はどうだ?円高に振れてるから、輸入原料のコストは相殺されてるはずだぞ
「雰囲気」で仕事をして、会社の利益をドブに捨ててしまったのです。
「値上げは悪」 ではありません。 しかし、「根拠なき値上げ」 は罪です。
調達部門として妥当性を突き詰めることなく、 それを看過するのは、 もっと罪深いのです。
世界を読み解く3つのステップ
ポテチ1袋の値段から世界経済を読み解く 旅、 いかがでしたか。
これから値上げの波はさらに激しくなります。
しかし、仕組みを知れば、それは恐怖ではなく「あなたがプロとして価値を発揮する舞台」に変わります。
- 「主語」を変えてニュースを読む
「ジャガイモ不作」という記事を見たら、「じゃあ、代わりのコーンスナックの需要が増えるかも?」と連想ゲームをする。 - 身近なモノの「構成要素」を疑う
「このペットボトル、なんで四角いんだろう?(輸送効率のため?)」と、デザインの裏にあるコスト意識に思いを馳せる。 - 仕事で「分解」してみる
見積書をもらったら、「一式」ではなく「材料費」「加工費」「管理費」に分解してもらうよう交渉する。
まとめ:値上げの波を「活躍の舞台」に変える
値上げの波は、これからも容赦なく押し寄せるでしょう。
しかし、仕組みさえ知ってしまえば、それは恐怖の対象ではなく、あなたが活躍するための「舞台」に変わります。
スーパーの棚の前で、あるいは会社のデスクで。
これまでとは違う解像度で世界を見つめるあなたの手には、もう今まで以上の「交渉力」というチケットが握られているはずです。
値上げのカラクリが分かれば、次は「じゃあどう交渉するか」が勝負の分かれ目です。
Udemy講座「コスト削減交渉術」では、コスト構造を見抜いた上でサプライヤーと戦略的に交渉するための実践テクニックを5時間に凝縮しました。
“カラクリを知っている人”から”カラクリを交渉に活かせる人”へステップアップしましょう。
