「原材料が上がったので、価格を見直させてください」。サプライヤーからそんな一枚が届くと、飲むか断るかで頭が固まってしまう方は多いと思います。
言い値で飲めば、あとから社内で「なぜそのまま通したのか」と問われる。かといって突っぱねれば、供給が止まるかもしれない。でも、その二択で消耗する必要はありません。値上げ要請は、丸ごと受けるか突っぱねるかではなく、中身を分けて査定できるものだからです。
やることは3つ。まず根拠を出してもらう。次に公開データと照らし合わせる。最後に、負担する分と負担しなくていい分を分けて、上がった分だけを妥当な範囲で受け入れる。これを部分妥結と呼びます。感情や力関係の押し合いではなく、査定として向き合う。そうすれば、なぜこの額で合意したのかを、自分の言葉で社内に説明できます。
こんな方におすすめの記事です。
・一方的な値上げ要請が届いて、飲むか断るかで固まっている方
・言い値で飲むのも、頭ごなしに断るのも不安で、根拠を持って話したい方
・何をどこまで受け入れるのか、自分の言葉で説明したい方
「断るか飲むか」で消耗していませんか
二択で苦しくなるのは、値上げ要請を一つの塊として受け取るからだと思います。「一律5%」と書かれた一枚を、まるごと飲むか、まるごと拒むか。そう考えるから逃げ場がなくなります。
丸のみを続けると、原材料費や人件費の上昇分を、こちらが全部かぶります。しかも一度、根拠なしで通すと、売り手に「理由がなくても値上げは通る」という感覚が残り、次の便乗を呼び込みます。
では、頭ごなしに突っぱねればいいのでしょうか。それも危ういのです。要因を見ずに全面拒否をすると、苦しいサプライヤーが供給停止に傾くことがあります。査定だったはずが、納入を続けてくださいというお願いに変わってしまう。第三の道は、塊をほどいて、上がった分だけを見極めることです。
ステップ1 まず値上げの根拠を出してもらう

査定は材料集めから始まります。値上げ要求書面一枚では何も判断できません。
出してもらいたいのは、大きく3つ。ひとつ、材料費・労務費・エネルギー費・物流費といった要素ごとの内訳。ふたつ、比較の起点と終点。価格が落ち着いていた前期や前年平均を起点に、直近まででいくら上がったのか。みっつ、社内の改善でどこまで吸収し、それでも吸収しきれないのはどこか。
この切り分けを、売り手自身の言葉で説明してもらいます。
私も、根拠の薄い一枚に手を焼いたことがあります。原材料高騰を理由にした一律の値上げに内訳を出させると、実際に上がっていたのは一部の材料だけで、残りには便乗がまぎれていました。内訳を求めなければ、そのまま全部を飲んでいたでしょう。
ステップ2 公開データと照らし合わせる

根拠が出てきたら、その主張が世の中の動きと合っているかを測ります。頼れるのは、公開データ。主観のぶつけ合いを、客観の物差しに乗せ替えます。
まず見たいのが、日本銀行が毎月公表する企業物価指数です。自分の品目に近い分類を選び、ステップ1で決めた起点の月と直近の月を突き合わせれば、材料が実際にどれだけ動いたかを確かめられます。業界団体が公開する価格交渉支援ツールも探すと、品目ごとの相場がまとまっていることもあります。
ここで一度立ち止まってください。売り手の言い値は、本当に市況だけで動いているでしょうか。たとえば樹脂の価格は、原料のナフサだけでは決まらず、需要や為替でも動きます。市況で説明できる範囲はどこまでかを見極めるところまでが、このステップの役目です。実際に差し引く作業は、次のステップ3で行います。
ステップ3 負担する分としない分を分けて、部分妥結する

ここが、この記事のいちばん大事なところです。要求された金額から、市況で説明できない分、つまり便乗の分を外して、本当に負担すべき分だけを残していきます。
まず、要因ごとに分けて按分します。按分とは、全体を割合に応じて割り振ることです。仕入先の総量のうち自社向けが何割かを出し、その分だけを負担すべき総額として引き受ける。
金属材料なら、もう一手あります。加工のときに出るスクラップ(切りくず)の売却相当額を差し引くのです。たとえば、次の条件で考えてみます。
- 投入する材料は、製品1個あたり1キロ
- 材料費の上昇は、1キロあたり20円
- 加工で200グラムが切りくずになり、その切りくずは1キロあたり50円で売れる
素直に見れば、1個あたり20円の値上げです。でも、売れる切りくずの分は戻ってきます。200グラムが1キロ50円で売れるなら、戻るのは10円。査定額は、20円から戻る10円を引いて、1個あたり10円まで下がります。
値上げ20円 – 戻る10円 = 負担すべき10円
正味の重量ではなく、実際に投入する重量で見るのが要点です。この一手で、合意する金額はけっこう変わってきます。
こうして抑えた分は、年間でいくらになるかまで出しておくと、社内で説明しやすくなります。
受け入れ方にも工夫があります。上がった分を恒久的な単価改定にせず、時限の措置として受ける。指標が落ち着いたら再協議する条件を紐づけておけば、高騰が去ったあとも高い単価を負担せずにすみます。ここを詰めずに恒久の値上げとして飲んでしまい、相場が戻ったのに高い単価が残って苦労した、という話はよく聞きます。
以前、一律の値上げを要素別に見直すと、上がっていない要素まで要求額に含まれていました。外すだけで要求額は下がります。とはいえ、言い分が全部通るとは限りません。狙いは売り手を言い負かすことではなく、双方が社内で説明できる着地点を見つけることです。
まとめ 値上げ要請は、査定できる
最初から完璧を目指さなくて大丈夫です。新人のうちは、まず根拠を出してもらって整理するところまでを目標にすればいい。受け入れる額の最終判断は、社内関係者と相談すればよいのです。手順があると分かれば、次に要請が来ても身構えずにすみます。
覚えておきたいのは、値上げ要請を突っぱねたり、据え置いたりするとリスクがあることです。コストが明らかに上がっているのに協議に応じず、値上げを黙殺する。これは取適法(旧下請法)が禁じる買いたたきや、一方的な代金の決定に当たりかねません。公正取引委員会も、こうした据え置きを問題として扱っています。
だから、頭ごなしに拒んだり黙殺したりせず、査定で応じるのが結局は安全です。とはいえ、査定の場で言うべきことを落ち着いて言うには、支えが要ります。
それが、切り替えられる供給先を持っておくことです。ほかにも買えるあてがあれば、この一社が止まっても困らないという前提ができて、交渉の声が落ち着きます。
そして、すべての値上げが便乗ではありません。正当に上がった分は、妥当な範囲で受け入れる。依存度が高い売り手ほど、長く付き合う前提での配慮が要ります。
値上げ要請は、査定できる相談ごとです。根拠を出してもらい、データと照らし、負担する分だけを受ける。この3つを回せれば、値段の話で消耗することは、ずいぶん減るはずです。
値上げ要請の前で手が止まるのは、価格交渉の土台がまだ手の内にないからかもしれません。「資材調達コスト削減交渉術」では、根拠の集め方から詰め方までを、現場で使う順番に組み立てています。見終えるころには、次の値上げの相談に、自分の言葉で返せるはずです。
