こんな方におすすめ
・サプライヤーの値上げ要請に毎回押し切られて困っている方
・断るのも飲むのも怖くて、上司の判断に頼りがちな方
・調達担当として価格交渉のロジックを基礎から身につけたい方
サプライヤーから値上げ要請が届いたとき、妥当かどうか確かめる方法が分からずに困ったことはありませんか。
「断るのも怖いし、飲んでしまえばいいのか」と迷いながら、毎回なんとなく折り合いをつけている方は少なくありません。
ある交渉で、根拠資料の要求メールを1通送ったら、翌日に「一度内部で確認させてください」と返ってきたことがあります。準備せずに、これくらいかなと感覚で要請を出していたサプライヤーは、数字の精査をせざるを得なくなったのです。
この記事を読み終わる頃には、明日の交渉テーブルで使える型が手元に揃っているはずです。
値上げ要請が来るたびに断るのも怖くて、毎回なんとなく応じてしまっています。何か方法はありますか?
3ステップの「査定の型」を使えば、感情論ではなくデータで着地できます。根拠資料を要求するところから始めましょう。
まず根拠資料を要求する|それだけで交渉の流れが変わる
値上げ要請を受けたら、最初にすることは根拠資料の要求です。
発注側が原材料費・エネルギーコスト・人件費の内訳を確認する権利があります。感情論でも力関係でもなく、これは正当な商取引の手続きです。取適法(旧下請法)でも、発注側が価格根拠の確認を求めることは前提とされています。
根拠資料を求めた発注側企業は約52%にとどまっているというデータがあります。裏を返せば、約半数の買い手側は根拠を確認しないまま交渉を進めているということです。「要求する」という一歩を踏み出すだけで、大多数のバイヤーより主導権を持った交渉ができます。
根拠資料として確認すべき書類は3点です。
品目ごとの材料費と過去の推移を書面で依頼する
電力費・燃料費の前後比較を確認する
最低賃金改定前後の比較を求める
この3点を「お送りいただけますか」とメールで依頼するだけで、適当な値上げ理由のサプライヤーは要請を見直さざるを得なくなります。準備のないサプライヤーにとっては、客先からの要求が社内でコスト確認のきっかけになることが多く、むしろ「内部で整理できた」と受け取られるケースも少なくありません。
ここで気になるのは「要求すると関係が壊れるのでは」という心配です。パートナーシップ構築宣言(2020年から政府が推進し、約25,000社が署名)では、発注側と取引先が対等な価格交渉を行うことが前提とされています。根拠を確認することは関係を壊す行為ではなく、むしろ対等な取引の出発点です。
根拠資料が揃ったら、次はその内容を3つの要素に分解して照合します。
要請を3要素に分解する|市況データと照合して査定する
値上げ要請の中身を分解すると、①原材料費②エネルギー・物流費③人件費の3要素に整理できます。
それぞれに対応する市況データと照合することで「転嫁すべき部分」と「そうでない部分」が見えてきます。
「コストが上がった」という主張だけでは不十分。品目単位で数字を確認することが査定の核心です。
まず参照したいのが日本銀行の「企業物価指数(CGPI)」です。政府が毎月発表する、企業間の仕入れ・販売コストの変化率を品目ごとに示した指標で、無料で公開されています。
2024年の国内企業物価指数は前年比+2.3%でも品目によって±5〜15%の格差があります。「コストが上がった」という主張が市況と合っているかどうか、品目単位で確認できるのです。
3要素と参照先を対応させると次のようになります。
日銀「企業物価指数(CGPI)」の品目別指数を参照する
資源エネルギー庁の電力・ガス価格データ、国交省の燃料サーチャージ情報を参照する
厚労省の都道府県別最低賃金・改定額を参照する
金属部品メーカーから「鋼材が値上がりしているので値上げしたい」という要請を受けたことがあります。日銀のCGPIで鉄鋼指数を確認したら、前年比でマイナス圏だったのです。その数字をそのまま提示したら、翌週に要請額が下がりました。
「市況で説明できる部分」を数字で示すと、サプライヤー側も感覚値で押し通せなくなります。
製造業の中小企業では、仕入れDI(Diffusion Index:企業の景況感指数で、+なら増加方向を示します)が+48であるのに対し、販売価格DIが+16という数字があります。転嫁ギャップが30ポイント超続いているのが実態です。
転嫁ギャップが大きい状況では、サプライヤー側も「全額断られるより一部認めてもらえれば社内で説明できる」という現実があります。だからこそ「市況データで確認できた部分だけを認める」部分妥結が双方にとって着地しやすい選択肢になります。
まずは日本銀行のCGPIで、サプライヤーの品目に対応する指数をひとつ確認してみてください。それが次の交渉に持ち込む数字の根拠になります。
部分妥結で着地する|断るでも飲むでもない第三の選択
部分妥結とは、サプライヤーの値上げ要請を全額認めるのでも全額断るのでもなく、根拠が確認できた部分だけを価格に反映することです。前の2ステップで査定した「市況で説明できる分」だけを数字で提示して、交渉テーブルに乗せます。
あるケースでは、原材料費の上昇分として市況データで確認できた部分のみを認め、エネルギー分は「現時点では根拠が確認できませんでした」として据え置きとしました。その根拠をA4一枚にまとめて提示したら、サプライヤーは1週間後に合意してきました。
【部分妥結が双方にとって着地しやすい理由】
発注側:市況で確認できた分だけを認める
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客観的な数字を根拠に提示できる
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サプライヤー:「全額断られる」より「一部認めてもらえた」実績になる
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担当者が社内で説明しやすく、合意しやすい着地点になる
部分妥結はサプライヤー側にとっても実は都合が良いことがあります。「全額断られる」よりも「一部認めてもらえた」という実績の方が、サプライヤーの担当者が社内で説明しやすいのです。こちらが数字を根拠に誠実に対応しているほど、相手も「こちらの会社とは対等に取引できる」と感じて合意しやすくなります。
うまくいかない場面も正直あります。根拠を示しても感情的に反発されることや、部分妥結の提示から合意まで複数回のやり取りが必要になることもあります。それでも「市況データ」という客観的な軸があれば、交渉が「感情の場」から「事実の場」に変わる。それがこの方法の本質です。
コスト上昇分を「十分に転嫁できた」と感じている企業は約38%にとどまっています。転嫁に苦労している現場が大半を占める状況でも、「査定ベースの部分妥結」という選択肢があれば、感情論ではなくデータで着地させることができます。
新人バイヤーの場合は、まず「根拠の整理まで自分でやる」ことが最初のゴールです。提示する金額や着地の判断は上司と相談しながらでも、「どのデータで市況を確認したか」を自分で説明できる状態にしておけば、交渉の場で頼もしい存在になれます。個人的には、このステップを踏んだ最初の交渉が、バイヤーとして自立する大きな転機になると感じています。
断る勇気でも、飲む覚悟でもありません。データで着地させる型を一度使ってみてください。
まとめ
この記事では、値上げ要請を3ステップで査定し、部分妥結に持ち込む方法を解説してきました。
- まず根拠資料を要求する → 交渉の流れが変わる(発注側の正当な権利)
- 3要素(原材料費・エネルギー・人件費)に分解して市況データと照合する → 転嫁すべき分を切り分ける
- 根拠が確認できた部分だけを認める → 部分妥結で着地させる
値上げ要請を受けたとき、その品目の数字を1つ確認するだけで、交渉が変わります。
