届いた見積書を前に、「高いのか安いのか」と手が止まった経験はありませんか?
日本銀行の企業物価指数によると、2026年5月の国内企業物価は前年比プラス6.3%、輸入物価はプラス25.5%。相場が動く今、「なんとなく」で判を押すと損が積み上がります。
この記事はこんな方におすすめです。
・手元に1社の見積しかなく、高いか安いか判断できずにいる方
・自分の査定を体系化して、上司に根拠を説明できる型がほしい方
・部下が根拠なく発注する前に、査定の基準を部内でそろえたい方
査定は5つの型を順番どおりに当てれば、1社の見積でも今日アタリを付けられます。
見積査定は「順番」で決まる|5つの型の全体像
見積査定とは、見積の金額が妥当かどうかを根拠を持って判断する作業です。
方法は5つ。①他社比較、②類似品比較、③市況比較、④コストテーブル照合、⑤原価積上げです。
大事なのは、この5つに「使う順番」があること。相見積(同じ条件で複数社から取った見積)がなくても、③から先は今日から回せます。
外側の相場から測る型ほど速く査定ができ、内側の原価から読む型ほど、手間と引きかえに精度が上がります。
④のコストテーブルは過去の見積をためて作る自社専用の値段表、⑤の原価積上げは材料費や加工賃を足して「本来いくらが妥当か」を出す方法です。名前だけ頭に入れれば十分です。
私の経験でも、材料を指定された部品で見積が1社しか取れず手が止まったことがあります。③市況比較に切り替え、素材の相場と見積の上げ幅のズレをたしかめると、とっかかりになりました。比べる相手がいなくても、打つ手は残っています。
使う順番は次のとおりです。
①②:外側から測る(他社比較・類似品比較)
手元のデータで速く判断できます。
③:相場で測る(市況比較)
データがなくても公的統計でできます。
④⑤:内側から読む(コストテーブル照合・原価積上げ)
手間はかかりますが、高精度で判断できます。
手元に過去や他社の見積がある方は、まず①他社比較か③市況比較のどちらが今すぐ使えるかをたしかめるところから始めてください。査定の体系は記事「見積査定のやり方を完全解説」が下敷きです。
まずは外側から測る2つの型から見ていきます。
相場を「外側」から測る|①他社比較と②類似品比較
私が見積を開いてまず試すのは①他社比較です。相見積が3社分あれば、価格の幅を見比べるだけで相場がつかめます。3社の真ん中あたりに収まっていれば、大きくは外していないと読めます。いちばん速くて確実な型です。
ただし①は相見積があってこそ。特注品や指定材、短納期の案件では1社しか取れないことも多いです。そこで代打になるのが②類似品比較です。兄弟品、つまり材質や工程が同じで形やサイズだけがちがう既存品の過去見積から、対象品の妥当な単価を逆算します。
相見積が取れない時って本当に困ります。どうやって判断するんですか?
その時こそが②と③の出番。相見積がなくても、過去の似た製品や市況データで相場は見えます。次の手順で試してみてください。
割り出し方の一例です。
重さの比、加工面積の比、加工工数の比のうち対象品にいちばん近い物差しを1つ選び、その比率を兄弟品の単価に掛けて換算します。倍の重さなら材料費もおよそ倍、加工の手間が同じなら加工賃は据え置き、と分けて見ます。
割り出した単価を新規の見積と突き合わせると、ぴたり一致はしなくても「明らかに高くないか」は見抜けます。ただし②が使えるのは、過去の見積データがたまっているときだけです。
一つ注意です。相見積が3社そろって見えても、スペック・納期・ロットの条件がそろわなければ比較は成立しません。条件を合わせて取り直す手間を惜しむと、後から「なぜ高いほうを選んだのか」と詰められます。①も②も手元に比べる材料がある人の型です。相見積も過去見積もないときは、次の③市況比較の出番です。
「今の相場」を公的データで確かめる|③市況比較
③市況比較は、相見積がゼロでも今日できる査定です。素材の相場を公的データで調べ、見積の上げ幅が相場と合っているかを見ます。カギは企業物価指数(CGPI)。企業どうしで売り買いするモノの値段の動きを、日本銀行が毎月まとめた指数です。
どこを見るかは素材で決まります。銅やアルミならLME、という具合です。何でできているかを図面で見れば、開く先は絞れます。
樹脂成形品の値上げ見積を、公開データとに照らしたことがあります。
仮の数字で言うと相場の上げはプラス8%なのに見積はプラス15%。この差を根拠に内訳の説明と出し直しをお願いできました。年間購買額1千万円の部品で7%の上げ過ぎを通せば年70万円。相場との差は交渉の言葉にもなります。
手順は4つだけです。
市況に映るのは素材の値段だけ。加工賃や物流費が妥当かまでは分かりません。その先は原価を内側から読む④と⑤の出番です。
原価を「内側」から読む|④コストテーブル照合と⑤原価積上げ
もっとも精度が高いのが、④コストテーブル照合と⑤原価積上げです。
④は自社の値段表と新しい見積を照らす方法です。
⑤は材料費と加工賃を一つずつ足して理論値を積む方法で、Should-Cost(本来かかるはずの費用の理論値)とも呼ばれます。材料費は製造原価の中でも大きな割合を占めるといわれます。材料費を調べるだけで、見積の大部分にアタリが付きます。
原価積上げは身構えがちですが、最初の一歩は決まっています。見積明細の材料欄から、いちばん金額の大きい主材料を1つ特定すること。私はいつもここから手をつけます。
その素材のkg単価やトン単価を調べ、見積の材料費と突き合わせます。これだけで材料費が相場どおりかが見え、妥当性の半分はつかめます。加工賃を査定するのは、その次でかまいません。
原価を読める人は、交渉でも強くなります。
コストテーブルは最初の一歩が9割です。私がゼロから作り始めたときは、過去見積3社分をExcelで品目別に並べただけで「この見積は明らかに高い」が一目で分かりました。最初の一歩は次の3つで足ります。
最後にひとつ、押さえておくべきルールがあります。
査定は、値切るための道具ではありません。取適法(フリーランスなど立場の弱い受注者を不当な値引きから守る、取引適正化のための法律)も、原価を割る単価の押し付け、いわゆる「買いたたき」を禁じています。
査定は、根拠を持って「適正な点」を探す行為です。部内でこの型をそろえれば担当者ごとの判断のばらつきが減り、コスト管理の根拠が部の共通言語になります。
まず明日、見積明細の材料欄の品目を1つたしかめてみてください。それが原価積上げの最初の一歩です。発展形は「コスト削減の7つのレバー」で解説しています。
まとめ|査定は「対等に話すための準備」
- 査定は5つの型を「順番」で当てる
- 相見積があれば①他社比較、なければ②類似品比較で外側から測る
- データがゼロでも③市況比較なら公的統計で今日たしかめられる
- ④コストテーブルと⑤原価積上げまで読めると交渉でも強い
明日からできる3ステップです。
自社では、①他社比較・②類似品比較・③市況比較のどれが今すぐ使えそうでしょうか。そこが明日の一歩です。
査定は値切りではなく、相手と対等に話すための準備です。交渉の組み立ては「市場価格で判断する一流バイヤーの考え方」へどうぞ。
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