運送会社から『もう今の運賃じゃ、お宅の荷物は後回しにするしかない』って言われたんです。どうしましょう……
サプライヤさんの工場の片隅で、脂汗を浮かべたサプライヤーの営業担当者にそう詰め寄られた時のことを、昨日のことのように思い出します。
20年以上、この調達という仕事をしてきましたが、あの日ほど「物流が止まれば、自分たちのものづくりも終わる」と肌で感じた日はありません。
▼こんな方におすすめ
・「送料込みの単価」が当たり前で、本当の運賃がいくらか把握できていない方
・2025年4月から施行される「改正物流効率化法」で、調達実務に何が求められるか知りたい方
・単なる値上げ受け入れではなく、サプライヤーと協力して「運び続ける」仕組みを作りたい方
物流というインフラは今、土台からメキメキと音を立てて崩れ始めています。
これまでの常識が通用しない「物流2024年問題」の只中で、私たち製造業の資材調達担当者はどう動くべきなのでしょうか。
結論から先に言いますね。
これからの調達部門の評価は、「いかに安く買ったか」に加えて、「いかに確実な物流網を確保したか」で決まるようになります。
隠された爆弾:「送料込み価格」という不透明な慣習
サプライヤーからまた値上げ要請が来ました。
「物流費が高騰して」って毎回言われるんですけど、うちは「送料込み価格」で契約してるんだから、そこはそっちでがんばってよって思うんですけど。
それが一番危険な考え方なんだよ。
送料が無料なわけがないだろう?「込み」にすることで、私たちは運賃というコストをブラックボックスの中に押し込んできた。
そのツケが今、回ってきているんだ。
日本の製造業、特に国内取引において、長年「送料込み価格(届け先価格)」が当たり前とされてきました。実のところ、これが物流危機の根源です。
ある企業がコスト構造の透明化を図るため、サプライヤーに対しコスト内訳の開示を求めた事例があります。
サプライヤーに対し「運賃負担を適正に評価したい」と真摯に意図を伝え、配送ルートごとの実費提出を依頼したのです。
長年物流費が据え置かれていました。当然、その中に、「物流2024年問題(ドライバーの残業規制)」に伴うコスト増加分が、1円も反映されていないことが浮き彫りになったのです。
この「コストが1円も更新されていない」という停滞こそが、現在日本各地で物流危機の引き金となっています。
このまま対策を講じなければ、2030年度には国内の荷物の約34%が運べなくなるという衝撃的な試算も現実味を帯びてきます。
行政処分も?改正物流効率化法が突きつける「荷主の責任」
さて、ここで重要なお知らせがあります。
2024年5月に成立し、2025年4月から本格施行される「改正物流効率化法」のことです。
これ、他人事だと思っていませんか?
実は、私たち「荷主(荷物を送る・受け取る側)」に対して、かなり重い義務が課されることになりました。
特に、一定以上の規模がある企業(特定事業者)は、以下の対応が「義務」になります。
特定事業者の義務
- 物流統括管理者(CLO)の選任
役員クラスを責任者に据え、経営課題として物流に取り組まなければなりません。 - 中長期計画の作成
どうやって物流を効率化するか、国に計画を提出し、定期的な報告が求められます。
正直なところ、これができていないと「勧告」や「公表」、最悪の場合は「罰則」の対象になる可能性だってあります。
コンプライアンスの観点からも無視できません。
でも、一番怖いのは罰則じゃありません。ドライバーを平気で3時間待たせるような工場が、
運送会社からあの会社とは契約しない、と三行半(みくだりはん)を突きつけられることです。
荷主選別が、実のところ、もう始まっていますよ。
「モノの代金」と「運賃」を切り分けるという、勇気ある対話
多くの担当者が、見積書の「商品代金」と「運賃」を明確に分けて記載させることを躊躇します。
なぜこれに「勇気」がいるのか。
それは、価格の中身をさらけ出すことで、お互いの「言い訳」ができなくなるからです。
曖昧な交渉はもう通用しない
「原材料が上がった気がする」「なんとなく物流費が上がったらしい」という空気感での価格決定は、もはやリスクでしかありません。明確なデータに基づく交渉が必要です。
運賃を別扱いにすれば、燃料高騰や賃上げのたびに、データに基づいたガチンコの交渉をしなきゃいけない。
正直、管理の手間も増えるし、面倒くさいですよね。
それでも、今、別立てにするべき理由は明確です。
「運賃を適切に払っている」という証拠を契約書に残すことが、取適法(旧下請法)違反を疑われるリスクを避け、かつ、自分たちのサプライチェーンを維持するための最大の防御になるからです。
すべての取引を「モノ代」と「運賃」に切り分けた会社もあります。
これによって、「ガソリン代が上がったから、今回は運賃部分だけ3%上乗せしましょう」という、非常にクリアで建設的な交渉ができるようになったんです。
サプライヤーも「これなら納得できる」と、以前より積極的に納期の融通を利かせてくれるようになりました。
明日からできる!資材担当者のためのサバイバル3ステップ
現場の物流のことは物流部門に任せているから……」という言い訳は、もう通用しません。
資材調達のデスクにいながら、明日からすぐに手を付けられるアクションを3つ提案します。
- 次回の見積依頼から「運賃の別出し」を条件にする
既存のサプライヤーでも、新規の相見積もりでも構いません。
「今後は物流リスクを正確に把握したいので、単価と運賃を分けて出してください」と伝えてください。
・狙い:物流コストを可視化することで、不当な値上げを防ぐと同時に、正当な値上げ要請に対して根拠を持って応じられるようにします。
・ポイント:いきなり全品目は無理でも、輸送距離が長い大物部品から着手するのが定石です。 - 発注の「頻度」と「ロット」を見直す
資材担当者が一番力を発揮できるのがここです。「毎日少しずつ」という発注習慣が、実は物流を最も圧迫しています。
・アクション:
生産計画を精査し、例えば「毎日10箱」の発注を「中2日で30箱」にまとめられないか検討してください。
・狙い:
トラックの積載率を上げ、配送回数を減らす。これは運送会社にとって最もありがたい「実質的なコスト削減協力」になります。 - 社内の設計・製造部門と「梱包仕様」の改善を相談する
「もう少し箱が小さければ、1パレットにもう1段載るのに……」というサプライヤーの嘆きを聞いたことはありませんか?
・アクション:
サプライヤーを訪問した際、梱包やパレットへの載せ方に無駄がないか聞いてみてください。それを社内の設計や品質保証部門にフィードバックする。
・狙い:
輸送効率を上げるための仕様変更は、単価交渉よりもはるかに持続的なコストダウン効果を生みます。資材担当者は、その「橋渡し役」になれる唯一のポジションです。
結論:物流を守る者が、ものづくりを制する
「安く買い叩くのが優秀な調達担当者だ」という時代は、本当にもう終わりました。
これからは、サプライヤーや物流会社と手を携え、「どうすれば効率よく、確実に届けられるか」を一緒に考える。
そんな「デザイン力」を持った担当者が、会社から必要とされるようになります。
正直、面倒なことも多いでしょう。上司の理解を得るのも大変かもしれません。
それでも、目の前のサプライヤーさんに「一緒に運び続ける方法を考えよう」と言えるような、血の通った調達を目指しませんか。
それが、回り回って、あなたの会社の生産ラインを、そして日本の製造業を守ることになるのだと、私は信じています。
まずは明日、一番付き合いの長いサプライヤーさんに「最近、運送会社さんとの関係はどうですか?」と探りを入れるところから始めてみませんか?
