エネルギー危機で中国が独り勝ち|調達担当が今やるべき3つの備え

ベトナムの工場から”電力コスト上がったので見積もり出し直します”って連絡きたんだけど、中国のサプライヤーは涼しい顔で従来価格を出してくるんだよね……これ、どういうこと?

私も2026年3月、ホルムズ海峡事実上封鎖のニュースを見た翌週に、ASEAN拠点のサプライヤー3社から一斉にコスト改定の打診を受けました。

  • チャイナプラスワンを進めてきたが、移管先のコスト上昇に頭を抱えている
  • 上層部から「脱中国」と言われるが、代替先にも不安を感じている
  • エネルギー危機が自社の調達にどう影響するか、整理できていない
  • ホルムズ危機で中国のコスト優位が再拡大している構造的な理由
  • 移管先ASEANも実はエネルギーに脆弱だという見落としがちな事実
  • 「脱中国か、依存か」の二択を超える「ポートフォリオ型調達」の考え方
目次

ホルムズ海峡封鎖 — いま何が起きているのか

ホルムズ危機のキーデータ
  • 通過船舶:1日約120隻 → 一桁台へ激減
  • ペルシャ湾内滞留:約2,190隻
  • ブレント原油:約74ドル → 113ドル超(ドバイ原油は一時126ドル)
  • LNGアジア指標(JKM):一時68%急騰
  • 日本の中東原油依存度:約95%

数字を見てください。2026年2月末の事実上の封鎖開始以降、ホルムズ海峡を通過する船舶は平常時の1日約120隻から一桁台へ激減しました(2026年4月3日)。ペルシャ湾内には約2,190隻が滞留しています(2026年4月1日付)。

影響は価格に直結しました。Goldman Sachsは最悪ケースでブレント原油が150ドルを超えると警告しています(2026年3月12日)。実際、ブレント原油は封鎖前の約74ドルから3月末には113ドル超まで急騰し、中東からの現物受け渡しを反映するドバイ原油は一時126ドルに達しました。LNGのアジア指標(JKM)も一時68%の急騰を記録しています。

日本は輸入原油の約95%を中東に依存しているため、JBpressの分析では石油備蓄が8月にも枯渇するリスクが指摘されています(JBpress 2026年3月25日付)。JEPX(日本卸電力取引所)の中部エリアにおけるスポット平均価格は4月3日に約40円/kWhまで上昇した時間帯もあるなど、製造業の電力コストも上昇してきました。

正直な話、BCPは資材調達から考えるべきだと以前から書いてきましたが、ここまで急激な展開は想定を超えていました。

なぜ中国だけが「平気な顔」をしているのか

中国って原油たくさん輸入してるのに、なんで平気なの?

ポイントはエネルギーの「自給率」にあります。

China Dailyによると、2026年の中国エネルギー自給率は84.6%。石炭の国内生産だけで電力需要の大半をまかなえる構造です。ホルムズ海峡が封鎖されても、中国の電力供給には致命傷にならない。ここが日本やASEAN諸国との決定的な違いです。

さらに効いているのが再生可能エネルギーへの投資です。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の「Renewable Power Generation Costs in 2024」によると、中国の太陽光発電コストは0.033ドル/kWh。これは世界最安水準です。国連とIRENAの合同レポートでは、太陽光は化石燃料に比べてグローバル平均で41%安いと報告されており、中国はこの恩恵を最も享受している国のひとつです。2025年末時点で太陽光の設置容量だけで約1,200GWを誇り、非化石燃料の設備容量比率は52%を超えています。

つまり中国は「石炭の自給」と「世界最安の太陽光」という二重の防壁を持っている。EU産業用電力が中国を大きく上回る水準にあるという構造を見れば、このコスト差が一時的なものではないとわかるでしょう。

私が深圳のサプライヤーを訪問したとき、工場の屋根一面に太陽光パネルが並んでいるのを見て「コスト対策か」と聞いたら、「当たり前でしょう」と返されました。あの時点で布石を打っていたのかと、今になって実感します。

移管先のベトナム・タイも実はエネルギー脆弱だった

脱中国で移管した先は安全なの?

ここが落とし穴です。

MUFGのレポートによると、ベトナムの原油輸入の85%は中東産で、そのほぼ全量がクウェート1カ国に集中しています(2026年3月18日付)。LNG輸入を拡大しているフェーズでホルムズ封鎖を食らった格好です。タイもASEAN最大のLNG輸入国となっており、国内ガスの減産に伴いLNG依存が急速に高まっています。Case for SEAのレポートでは、2030年までにタイのLNG輸入がガス供給全体の約50%に達する見通しが示されています。

IEAの「Southeast Asia Energy Outlook 2024」は、ASEAN全体が天然ガスの純輸入地域に転落すると見通しています。移管先として人気のある国々が、実はエネルギー面ではホルムズリスクの直撃圏内にいた。

2025年にベトナムへ全量移管を完了した中堅メーカーが、封鎖直後にコスト急騰に見舞われました。中国に戻そうにもベトナムへの進出コストがまだ未回収で身動きが取れない。「脱中国はリスク解消じゃなくて、リスクの種類が変わっただけだった」と、かなり苦い顔をしていました。

中国からの輸入が完全ストップした場合のシナリオ分析は以前に書きましたが、移管先がストップするリスクもセットで考える必要があったわけです。

「でも地政学リスクがあるから中国は危ないでしょ?」という反論はもっともです。台湾有事や輸出規制のリスクは消えていません。だからこそ、どちらか一方に全振りする戦略が危ういのです。

世界の調達潮流は「脱中国」から「うまく付き合う」へ

移管先もエネルギー面で脆弱だとわかれば、グローバル企業が「脱中国一辺倒」を見直し始めるのは当然の流れでしょう。実際、データがそれを裏付けています。

AgileBuyer-CNA共同調査(欧州企業対象、2026年版)によれば、調達責任者(CPO)のうち「中国依存を削減する」と答えた割合は、2025年の43%から2026年にはわずか17%へ激減しました。たった1年で旗を降ろす企業がここまで増えた。

McKinseyは、中国の製造業コスト競争力は依然として高く、完全撤退はコスト増と代替先の未成熟というダブルリスクを抱えると指摘しており、部分残留と分散を組み合わせたハイブリッドモデルの合理性を示唆しています。BCG『Balancing Cost and Resilience』でも、地域分散ネットワークはコスト増を伴うものの、操業停止リスクを大幅に低減できるとされています。

具体的に動いている企業もあります。Appleはインドを含む中国外でのiPhone生産比率を段階的に拡大しつつ、高付加価値部品のサプライチェーンは中国に維持する戦略を取っています。TCO(総所有コスト)を四半期ごとにモニタリングする体制を敷いているとされます。欧州の鉄鋼・化学メーカーの一部でも、2022年の欧州エネルギー危機時に中国サプライヤーへの発注を一時的に増やしてコスト急騰を乗り切り、その後ハイブリッド体制に移行した動きが報告されています。

中国サプライチェーンの構造変化を機会に変える視点も重要です。「中国は危ない」と思考停止するのではなく、どの部分を活用し、どの部分を分散させるか。世界の調達潮流は明確にその方向へ動いています。

「二択をやめる」ポートフォリオ型調達の考え方

ここまで読んで、「中国に全部戻す」のも「中国から全部逃げる」のも現実的でないことは見えてきたと思います。では、どう考えればいいのか。

私が提案したいのは、投資のポートフォリオと同じ発想です。株式投資で「日本株100%」も「米国株100%」も推奨されないのと同じように、調達先も品目の特性に応じて配分を設計する。

判断軸は3つあります。

(1)エネルギーコスト感応度
その品目の製造原価に占めるエネルギー比率はどの程度か。鉄鋼やアルミのように高い品目と、精密部品のように低い品目では戦略が異なります。

(2)安全保障リスク
レアアースのような中国の輸出規制対象品目は、コストメリットがあっても供給途絶リスクが高い。ここは政治判断に左右されるため、コスト最適だけでは語れません。

(3)代替可能性 — 内製化に切り替えるべきか、購入を続けるべきか。セカンドソースが存在するか。品質・納期・技術要件で代替が効くかどうか。

この3軸で品目を分類すると、方針が見えてきます。コモディティ品はエネルギーコスト優位を活かして中国継続。安保関連品目は国内回帰またはチャイナプラスワンでリスク遮断。中間的な品目はデュアルソーシングで柔軟性を確保する。

BCGの分析でも、こうした地域分散ネットワークを構築した企業は、操業停止リスクを大幅に低減できるとされています。

ただし注意点がひとつ。ポートフォリオを組んだつもりでも、セカンドソースに実際の発注を流していなければ機能しません。「登録だけして発注ゼロ」の第2サプライヤーは、有事に動いてくれないと思った方がいい。私自身、過去にこれで痛い目を見ました。年1回でもいいから試験発注を入れておく。これが分散調達を「絵に描いた餅」にしないための鉄則です。

まず今週できる3つのこと

理論はわかった。でも何から手をつければいいのか。月曜の朝にできることを3つに絞りました。

主要品目のエネルギーコスト感応度をざっくり仕分けする

自社の調達品目リストを開いて品種ベースでいいので、「この品種はエネルギー価格が上がったらコストに直撃するか?」を○×で仕分けるだけでOKです。鉄鋼・アルミ・樹脂のような素材系は感応度が高く、精密加工品や電子部品は相対的に低い。完璧な分析は不要です。まずはA4一枚で「影響が大きそうな品目」と「そうでもない品目」を分けてみる。これがポートフォリオ型調達設計の出発点になります。

契約書の不可抗力条項をバイヤー目線で点検する

ここで確認すべきは「エネルギー起因の供給不能」がフォースマジュールに含まれていないかどうかです。含まれていなければ、サプライヤーはエネルギー高騰を理由に供給義務を免れることができません。これはバイヤーにとって有利な状態です。逆に、すでに含まれている契約があれば要注意。有事にサプライヤーから「不可抗力なので納品できません」と言われるリスクがあります。該当する契約をリストアップして、優先的にリスク対応を検討しましょう。

エネルギー感応度の高い品目について、調達先の国別エネルギー構成をざっと調べる

1で仕分けた「影響が大きそうな品目」について、その調達先がどの国にあるかを一覧にしてください。そのうえで、各国のエネルギー事情をざっと調べる。中東依存度が高い国か、自国でエネルギーをまかなえる国か。経済産業省やIEAのサイトを見れば、主要国のエネルギー構成は30分もあれば把握できます。サプライヤー個社に聞くまでもなく、国レベルで「この調達先はエネルギーリスクが高そうだ」というアタリをつけられます。

全部は無理でも、この3つは今週中にスタートできます。完璧を目指す前に、まず現状を可視化すること。そこが出発点になります。

まとめ

この記事の3つのポイント

ホルムズ危機でエネルギー価格が急騰する中、エネルギー自給率84.6%の中国だけがコスト優位を拡大している。 これは一時的な現象ではなく、石炭自給+再エネ投資という構造的な強みに支えられた話です。

移管先のASEANもエネルギー面では脆弱であり、「脱中国=リスク解消」ではない。 リスクの種類が変わっただけという現実を直視する必要があります。

品目特性に応じた「ポートフォリオ型調達」で、中国とうまく付き合いながらリスク分散する。 これが二択を超える第三の道です。

この記事を書いた人

大手電機メーカーの現役バイヤー(調達歴20年超)。中小企業診断士。Udemy講師。現場の実務と経営の視点で、資材調達の「なぜ?」を解き明かします。

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