「また上海で止まってる? 先月も同じこと言ってたよな、いい加減にしろよ!」
上海の資材拠点駐在で、日本への輸出を担当していた私が、日本の事業部からかけられたあの日の胃の痛みが、ふと蘇ります。今のあなたも、同じ痛みを抱えているのではありませんか?
今の中国物流は、まるで「地雷原でのタップダンス」。
いつ爆発するか、誰にもわからない。それでも踊らなきゃいけない。しんどいですよね、ほんとに。
20年以上の現場経験を持つ私が断言しますが、今の状況を「個人のがんばり」で解決できる域を超えています。

憤りとニューノーマル ~ 2026年の通関遅延は「事故」ではない
「またか」とため息をついたあなた、少し認識を改める必要があります。
2026年1月現在、私たちが直面しているのは、単なるオペレーションの不備や税関職員の気まぐれではありません。これは明確な「構造的な断絶」です。
以前のレアアース・ショックみたいなものですか?
正直な話、2010年のレアアース・ショックを現場で経験した私としては、今の状況はその比ではないと感じています。
あの時は特定の鉱物だけでしたが、今回は範囲が広すぎる。
皆さんもニュースでご覧になったと思います。
今月はじめに中国商務部が出した輸出管理厳格化の方針。あれ、対岸の火事だと思ってませんか?
「2つの攻撃」の識別
冷静に分析すると、今回の遅延には2種類の性質が混在しています。
これを分けずに「遅れています」と報告するから、上司に「お前の努力不足」と言われるんです。
公式規制
レアアース、タングステン、半導体関連材料など。これは法律による「封鎖」です。現場がいくら電話しても、接待しても動きません。
非公式な嫌がらせ
規制外の一般化学品や食品に対する検査率の恣意的な引き上げ。
いわゆる「サイレント制裁」ですね。理由なきサンプリング検査で数週間止められるパターンです。
タングステンが消えた日
機械メーカーの調達担当者の嘆きです。
「超硬工具が入らない。消耗品が尽きたらラインが止まる」と。
調べてみると、原料のタングステンがデュアルユース(軍民両用)規制の網にかかっている。
彼は「いつもの遅延」だと思って、サプライヤーに督促のメールを送り続けていたんですが、無意味でした。相手は出したくても出せないんですから。
ここで数字を見てみましょう。上司を説得するには「感情」ではなく「金額」です。
通関保留による損失額の試算例
・前提: 年商150億円の工場ラインが停止
・計算式: 5,000万円(1日あたり売上)× 30%(粗利率) = 1,500万円/日
・結果: たった1日の通関遅れで、高級車1台分の粗利が吹き飛ぶ。
これが「調達部門のミス」で済まされる話でしょうか?
いえ、完全に「経営課題」です。
昨今の国際情勢を鑑みれば、これは一時的なノイズではなく、今後数年は続く「ニューノーマル」だと腹を括るべきです。
現場はもう、経済安全保障の最前線なんですから。
冷徹なエビデンス ~ 「サボタージュ」を見抜く武器
さて、ここからは泥臭い実務の話をしましょう。
サプライヤーから「中国政府の規制で送れません」と言われた時、あなたはどう返していますか?
「そうですか、大変ですね」なんて同情してちゃダメですね。
彼らも商売人であり、知ってか知らずか、時にはホントなの?と嘘をつくということです。
国内需要や他の顧客を優先するために、あるいは単に生産が遅れているのを隠すために「政府規制」をスケープゴートにしている可能性、否定できませんよね?
「不可抗力」を証明させる3つの神器
以下を即座に要求してみましょう。でなければ、「契約不履行(遅延)」を争います。
HSコードの照合結果
中国商務部の最新規制リストにあるHSコードと、今回の貨物が一致するかどうか。これを提示させます。「何となく規制対象っぽい」では許しません。

失敗談:信じた私が馬鹿だった
昔、ある電子部品メーカーの担当者を信じて、「台風で工場が停電したから遅れる」という言い訳をそのまま上司に報告したことがあります。
後で分かったんですが、実は他の(より高い値をつけた)欧州顧客に在庫を横流ししていただけでした。
こっぴどく怒鳴られました。
「お前はバイヤーか? ただの伝書鳩か?」って。あれは恥ずかしかった。
それ以来、私は性悪説の信者です。
いや、性悪説というよりエビデンス・ファーストですね。書類がない言葉は、風の音と同じです。
契約書の「穴」を埋めていますか?
反論があるかもしれません。
「そんな書類、中国側が出してくれるわけない」と。
ええ、簡単には出しませんよ。面倒くさいですから。
でも、だからこそ契約書なんです。Incoterms(貿易条件)はどうなっていますか?
EXW(工場渡し)は危険
もしEXWで契約していたら最悪です。中国の工場を出た瞬間にリスクはあなたのもの。
通関で止まっても支払義務は残ります。
商品が税関で止まって、手に入っていないのに、請求書だけが届く地獄、本当にあります。
悪いことは言いません。今すぐ他の貿易条件へ切り替え交渉を始めてください。
「貨物が船に乗る(FOB)までは支払い義務が生じない」という覚書だけでも交わすべきです。
覚悟の経営報告 ~ 在庫は「ムダ」から「保険」へ
最後は、あなたが一番頭を抱えているであろう「社内調整」について。
現場でいくら頑張っても、経営層が「在庫を減らせ(キャッシュフロー重視)」「物流コストを下げろ」の一点張りだと、どうしようもないですよね。
正直、私も昔は「在庫削減こそ正義(Just In Time)」だと信じていました。
でも、2026年の今、そのロジックは完全に崩壊しています。
PEST分析で「個人の責任」から切り離す
経営幹部への報告書、まさか「調達部門の力不足で納期が遅れています」なんて反省文を書いてませんよね?
主語を「私」から「環境」に変えましょう。
PEST分析(Politics, Economy, Society, Technology)を使って説明しましょう。
PEST分析による環境要因
・Politics (政治): デュアルユース規制の厳格化、輸出管理法の改正
・Economy (経済): サプライチェーン分断による調達コスト増
・Society (社会): 中国国内の労働力不足とカントリーリスク
・Technology (技術): 代替材開発の遅れと技術封鎖
こうやって枠組みで見せれば、これは「担当者の手際」の問題ではなく「不可避な外部環境の変化」として認識されます。
感情論を排除し、マクロ視点のロジックで攻めるんです。
在庫のパラダイムシフト
経営会議で使えるキラーフレーズがあります。
この在庫は『不良資産』ではありません。事業継続のための『保険料』です
従来のROA視点では、在庫は資産を膨らませる「悪」でした。
しかし、これだけ供給網がズタズタな状況では、在庫は「生産継続権(リアル・オプション)」という価値を持ちます。
「工場の火災保険には年間数千万円払うのに、なぜ事業の根幹である部材供給には保険(在庫)を掛けないのですか?」そう問いかけてみてください。
ラインストップの損失額と天秤にかければ、在庫保管料など安いものです。
チャイナ・プラスワンの冷徹な現実
「じゃあベトナムやインドに変えればいい」と軽く言う人もいますが、現場を知らない証拠です。
ベトナムの原材料は結局中国から来ていたりする(川上リスク)。
インドはインフラと行政手続きがカオス。国内回帰はコストと人手不足で現実味がない。
結局、特効薬なんてないんです。
泥臭く、全方位にリスクを分散させるしかありません。
「効率性」を捨てて「冗長性(無駄)」を愛する。
これからのバイヤーに必要なのは、この「強靭な無駄」を許容し、それを経営に認めさせる勇気だと、私は思うんです。
結論
長々と語ってきましたが、明日からできることはシンプルです。
デスクで頭を抱えるのをやめて、以下の3ステップを実行してください。
1. 情報の解像度を上げる
「中国がダメ」と一括りにせず、HSコードレベルで規制品目を特定し、それが「公式規制」なのか「嫌がらせ」なのかを見極める。
2. エビデンスという名の盾を持つ
サプライヤーにエビデンスを要求し、出せないなら「契約不履行」として代替案を強要する。
甘えは禁物です。
3. コスト概念を転換させる
経営層に対し、在庫増と物流コスト増を「BCP保険料」として再定義し、財務的な合意形成を図る。
この通関遅延は、あなたの会社のサプライチェーンをより強靭にするための、ちょっと手荒な「強制イベント」かもしれません。
ピンチ? いえいえ、これはプロの腕の見せ所でしょう。
感情的にならず、冷徹なロジックと熱い現場魂で、この荒波を乗り越えていきましょう。
きっと、数年後には「あの時は大変だったな」と、笑って白酒が飲める日が来ますから。
