「原材料費が10%上がったので値上げをお願いします」
そう言われて、あなたは見積書のどこから切り崩しますか?
相見積もり、過去実績との比較、いずれも正攻法ですが、そもそもどの会社も、以前から、水増しされていた場合にはなかなか有効な策ではなくなります。
転機は、見積を分解して明細を調べ直した瞬間に訪れます。一式の総額を見ていた時には見えなかった販管費率とチャージレートの過大が、同じ紙の上にすっと姿を現しました。
結局のところ大切なのは、見積書の明細を入手して突き合わせる2つだった気がします。
一式見積のまま値上げを丸呑みしそう…
どこから突けばいいか分からない。
疑う力より、明細取得と検証の2手。
突破口は開けますよ。
- 値上げ見積に潜む5つの水増しパターンと、その見抜き方
- 30分で完了する査定プロセスの手順
- 関係を壊さずに水増しを消す方法の伝え方
- 一式見積しか出てこないサプライヤーの値上げ査定に困る、経験3〜5年目のバイヤー
- 相見積もりだけではコスト削減が頭打ちと感じる中級担当者
- 取適法に抵触せず、正当な査定をしたい管理職・リーダー
なぜ一式見積は「疑っても切り崩せない」のか
一式見積を前にした中級バイヤーが、相見積もりが唯一の方法になってしまう。
これは怠慢ではなく、一式見積のままでは切り崩せないという構造の問題です。外注部品の価格が下がらない理由は、見積書が明細のない一式で入手されているケースが多いです。
相見積もりが効果が発揮できない場合に、考えられる要因の一つは、比較先も同じ業界慣行で盛っているからです。3社の見積が全社±2%以内に収まる場面に、結構な頻度で遭遇しました。
背後には、これまで競合にさらされ、他社の見積水準を推測できてしまうサプライヤが、「同じ販管費率、同じ歩留率、同じチャージレートで提示している」という共通水増しが潜んでいる気がします。
最安値採用は、あくまで水増し込みの最安値。原材料高騰の価格転嫁にあたり、サプライヤー各社は同じように利幅を確保しに来ます。
では、どう崩すか。水増しは「隠す」操作で成立しています。
加工費に販管費を按分で紛れ込ませる、材料費からスクラップ控除を考慮しない、加工時間に余裕率を重ねて乗せる。いずれも明細項目の追加を書かず、率や単価へ混ぜ込む手口です。
とはいえ、合計値を睨み続けても動きません。見積書の分解度を上げてはじめて、隠された水増しは姿を現します。
見積書を”解剖できる形”に変える—3パターンの分解要求
コスト削減の打ち手は1つではありません。見積査定はその入口です。まずやるべきは、価格交渉よりも見積書の解像度の引き上げ交渉。
見積書には3段階の明細開示度があります。パターン1「一式」、パターン2「材料費と加工費等主要素の分離」、パターン3「加工時間と費率まで」で、水増しだと検出ができるのは、明細が確認できるパターン2以降です。
明細の要求は「水増しを疑っている」というスタンスではなく、「共通言語の整備」として切り出します。実際のところ、中級バイヤーからは「内訳をお願いしたら担当者が急に冷たくなった」という声をよく聞きます。そこで、「次回以降も同じ基準で議論したいので、材料費と加工費を分けて出していただけますか」。継続性を前に立てるだけで、相手の受け取りが「値下げ圧力」から「フォーマット整備」へ移ります。
取適法違反が怖くて萎縮する、という声も根強いですよね。ただし取適法で問題になるのは、協議なしに値上げを拒否した場合、削減幅を口頭で押し付けた場合、価格低減を発注継続の前提にした場合の3点です。根拠を求める明細の依頼は、対等な協議の前提です。むしろ、明細なしに値上げを追認することこそ、説明責任を問われかねません。
明細見積が届いたら、明細をさっと確認します。例えば、金属加工品の場合だと、「スクラップ販売の収入は材料費から差し引かれているか」「販管費は率で機械計算されていないか」等ですね。
プロが見る5つの着眼点—水増しの”住処”を特定する
見積書明細には、水増しが住みつきやすい場所が5つあります。
| # | 着眼点 | 典型水増し | 所要 |
|---|---|---|---|
| ① | 材料ロス | 歩留率が実態と合っていない | 5分 |
| ② | 加工時間 | 二重に余裕率がかけられている | 5分 |
| ③ | チャージレート | 熟練工/外注 | 3分 |
| ④ | 販管費按分 | 算入すべき項目か | 5分 |
| ⑤ | 利益率+スクラップ | 控除漏れ | 2分 |
①材料ロスは、歩留率が実測ではなく、机上で作られていないかを検証して確認しましょう。許容の外に出ていれば根拠提出を求めます。
②加工時間は二重カウントの形で紛れ込みます。余裕率が重なってかかっていないか。重なっていると、加工時間がかなり膨らみます。例えば、金型段取り替え時間が1回分として正しいかという点があります。
③チャージレートこそ、現場検証が最も効く項目です。例えば、外注に出していて単価が安いのに、自社の熟練工単価が乗っていないかという点があります。
④販管費按分には、算入すべきでない項目があります。広告宣伝費・販売手数料・試験研究費の自社外分など。一律の割合でかかることも多いのですが、「いったい販管費とは何ですか?」「 どういう項目を請求しているのか」、確認してみるとよいでしょう。
中小製造業の販管費比率は平均20.8%。20%を大きく超えてくる場合、財務諸表と並べて差分を確認します。
⑤利益率とスクラップ控除は、輪を閉じる最後の1行。製造業の売上高経常利益率は平均5%前後。この上限を超えていれば説明を依頼してみましょう。また、スクラップの端材の売却分が差し引かれないまま値上げを受けるケースは、正直な話、驚くほど多いです。
30分で見抜く査定プロセス
パターン2以上に分解されているか。一式のままなら、残り時間は明細要求メール作成に回します。
材料ロスと加工時間。歩留率と余裕率の重なりを確認します。
チャージレート、販管費按分、利益率とスクラップ控除を予測して確認します。
疑義を「共通書式の整備」として差し出す質問文に落とし込みます。
やっぱり冒頭5分が肝心で、1式見積のままなら明細要求メールを書く。
一式見積を明細要求することで、高い販管費率とチャージレートの二重計上が浮上し、年間数千万円の削減に直結したこともあります。
伝え方も大事ですよね?
「この按分根拠を教えてください」「次回以降の基準を揃えたいので内訳を共有いただけますか」。
水増しを疑っているのではなく「共通書式の整備」として差し出すだけで、会話の温度はかなり変わります。
まとめ—今週1件、引き出しの見積から
サプライヤー見積の水増しは、値下げ交渉でも相見積もりよりも、「見積書の明細開示度を上げる」と「実際との突き合わせ」の2手で、検出できることも多い。本記事の3本柱は次の通りです。
- 5パターン: 材料ロス/加工時間/チャージレート/販管費按分/利益率とスクラップ控除
- 30分プロセス: 5分(明細の確認)+10分(着眼点①②の確認)+10分(③④⑤の確認)+5分(ヒアリング質問作成)
- 関係を壊さない伝え方: 「この按分根拠を教えてください」「基準を揃えたいので内訳を共有いただけますか」
この記事を閉じたら、引き出しから見積を1枚取り出し、「販管費率が記載されているか」の1行だけ確認してみてください。記載があれば着眼点④へ、なければ明細要求のメール文面作成へ。今週1件、その1行から始まります。
