最近、調達コストが何もかも上がってる気がして、何が原因なのか整理できていない……そんな方、今年は特に多いんじゃないでしょうか。
先日、中堅部品メーカーの購買マネージャーから「半導体部品も原材料も物流も全部同時に苦しい」と相談を受けて、改めて普通の状況じゃないと感じました。半導体だけ気にしていればいい時代は、とっくに終わっていたんですよね。
こんな方におすすめ:
・2026年の調達コスト上昇の全体像をまだ整理できていない方
・経営層から「なぜ今年だけコストが高いのか」と詰められている方
・単品リスク管理はしているが、複合リスクへの対応に自信がない方
2026年の調達現場、「何もかも高い」という感覚の正体
正直な話、これほど多くの品目が同時に逼迫した年は、20年以上のバイヤー経験の中でも記憶にないです。
マイコン(自動車や家電の中で動きを制御する小型チップ。英語ではMCUと呼ばれます)のリードタイムが55週(STMicroのケース)。次の納品まで1年以上待たされるということです。それだけじゃありません。原材料も上がる、エネルギーも上がる、物流も難しい。
実態を見てみると、日本の製造業の過半数(54.9%)が2025年に「供給混乱、または供給停止に至りかねない事象」を経験したことがわかっています(Resilire社調査 2025年)。
興味深いのは、その原因が「品質・コスト問題」だけでなく、「地政学リスク(35.7%)」「自然災害(34.2%)」「サプライヤーの倒産(33.5%)」も軒並み3割を超えていた点です。リスクが複合化していた、ということですよね。
ここで多くのバイヤーが陥る罠があります。「半導体チームは半導体だけを管理する」「原材料チームは原材料だけ見る」という縦割り対応です。
それぞれの部門が単品リスクを一生懸命管理していたのに、全体として「何もかも高い」状況になってしまう。これが、今の違和感の正体です。
2020〜22年のコロナ禍も確かに大変でしたが、あの頃は「物流が止まった」「特定の工場が閉鎖した」という一時的・局所的な問題でした。
2026年は違います。複数のカテゴリが同時に、構造的に逼迫しています。
「多重不足」とは何か——単品リスク管理が通用しなくなった理由
ここで一度、言葉を整理させてください。
私はこの状況を「多重不足」と呼んでいます。定義するとすれば「複数の調達カテゴリで、構造的・同時発生的に供給不足が起きている状態」です。一時的な需給の波ではなく、地政学・気候変動・技術変革という構造的な変化が複数の品目に同時に作用している、というのが2026年の本質です。
調達でよく使われるマトリクスがあります。品目を「収益への影響が大きいか」と「供給リスクが高いか」の2軸で4象限に分類するものです。
2026年に起きていることを一言で言うなら、「複数の品目が同時に、右上の象限(戦略品目・高リスク・高影響)に移動している」ということです。通常は1〜2品目の問題ですが、今年は半導体も鉱物も食料原材料も、一斉に「最も対処が難しい象限」に入ってきています。
GartnerはDRAM価格が2026年に125%上昇すると予測しており(Gartner 2026年4月8日プレスリリース)、トヨタですら数年前からJIT(Just In Time)を見直してバッファ在庫を戦略的に積み始めました。
単品BCPで対応できる時代ではありません。「半導体は確保できた、でもエネルギーコストで利益が消えた」という企業が実際に出ています。つまり今、調達担当者に求められているのは、「品目を超えた水平的なリスク視点」です。
多重不足という概念を理解した上で、では具体的に何が起きているのか。6つのカテゴリを見ていきましょう。
6つの不足——それぞれの構造と日本への影響
以下の6カテゴリが、2026年に同時発生しています。各カテゴリを「日本の製造業にどう影響するか」の視点で整理しました。
| カテゴリ | 代表データ | 主な影響先 | 日本への伝播 |
|---|---|---|---|
| ①半導体 | DRAM+125%、マイコン55週 | 電機・自動車・産業機器 | 部品コスト上昇・生産遅延 |
| ②食料・農産物 | 尿素価格約50%高騰 | 食品・化学・包装材 | 食品メーカーの収益圧迫→設備・包装材の発注抑制 |
| ③医薬品原薬 | インド製原薬の原料7〜9割が中国由来 | 医療・製薬 | 原薬調達コスト上昇 |
| ④重要鉱物 | 中国がレアアース精製の約9割を支配 | EV・電子・産業機器 | モーター・部品コスト上昇 |
| ⑤エネルギー | 原油Q2ピーク115ドル | 全業種(輸送・製造) | 全品目の輸送・製造コスト上昇 |
| ⑥物流キャパ | 日本2030年34%不足 | 全業種(国内) | 納期遅延・輸送費高騰 |
①半導体
AI向けHBM(高帯域幅メモリ)の需要が爆発的に増加し、SK Hynixは「2026年の生産能力はほぼ完売」と発言しています。GartnerはDRAM価格が2026年に125%上昇すると予測しており、「メモリフレーション(Memflation)」という造語まで生まれています。マイコン(小型制御チップ)はSTMicroが55週、Texas Instrumentsが20〜40週のリードタイムで、4月1日に15〜85%の価格改定を実施。自動車・産業機器の生産計画への影響は深刻です。
②食料・農産物
2026年2月末の中東での軍事衝突が引き金になりました。世界の肥料取引の3分の1以上がホルムズ海峡を通過しており、ペルシャ湾岸諸国が世界の尿素輸出の約49%を担っています。尿素価格は戦闘開始以降の1ヶ月で約5割上昇。食品メーカー・農産物加工業者を通じて製造業全体に波及します。
③医薬品原薬
原薬(医薬品の有効成分)は、一見インドへの分散化が進んでいるように見えますが、実態はインドが輸入する原料の7〜9割が中国由来です。これが「見かけ上の多様化の罠」です。中国の輸出規制が強化されると、インド経由で調達していた医薬品原料も影響を受けます。
④重要鉱物
IEAの報告では、レアアースの精製・分離段階の約91%を中国が担っています(IEA Global Critical Minerals Outlook 2025)。EVのモーターや産業機器の磁石、電子部品のコア素材がすべてここから来ています。中国が輸出許可企業数を絞り込み(タングステン15社、アンチモン11社)、戦略的に管理している現実があります。
⑤エネルギー
EIAの4月2026年版短期エネルギー見通しでは、ブレント原油のQ2ピークを115ドル/バレルと予測しています。ディーゼル価格は4月に5.80ドル/ガロン超。輸送コストが上昇すると、すべての調達品目のサプライチェーンコストが上がります。これが連鎖増幅の起点になります。
⑥物流キャパ
2024年4月から施行されたトラック運転手の残業上限規制(960時間)の影響が継続しています。NX総合研究所の試算では、2024年に14.2%、2030年には34.1%の輸送キャパ不足に達する可能性があります。国内貨物輸送の90%超がトラック依存という日本の構造的問題が、この不足をより深刻にしています。
連鎖増幅——エネルギー高が「全品目のコスト」を押し上げるメカニズム
6つの不足がそれぞれバラバラに起きているということ?
それぞれの担当部署で対応すればいいんじゃないですか?
実はそれが一番危険な考え方なんです。6つの不足は独立して動いているのではなく、互いを増幅しあう連鎖構造になっています。
エネルギー高が起点になって、他のすべてのコストを押し上げるんです。
6つの不足をバラバラに見るのと、連鎖として見るのとでは、対応の緊迫感がまったく違います。
もっとも基本的な連鎖は「エネルギー高→輸送コスト上昇→全品目のサプライチェーンコスト上昇」です。原油が高くなればトラックのディーゼル代も上がり、船舶の燃油費も上がる。結果として、半導体も農産物も医薬品原料も、「調達コストに輸送費の上乗せ」が入ってきます。
次に、意外な連鎖として「食料高→製造業の需要減」があります。肥料高騰で原材料費が跳ね上がった食品メーカーは、利益率を守るために、包装材の単価交渉・発注ロット縮小・設備投資の先送り・物流便数の集約、といった節約モードに入るわけですね。そうなると、食品業界向けに充填機・プラスチックフィルム・段ボール・検査装置などを納めている製造業は、売上が細る形で影響を受けます。
インド製原薬の原料7〜9割が中国由来という事実がその典型例ですが、「中国リスクを避けてインドに切り替えた」はずが、実は同じ上流の中国依存が残っている。多様化したつもりが、連鎖のどこかでまた一点集中になっているケースは、原薬だけでなく多くの原材料・部品で潜在的に存在しています。
とはいえ、6つすべてが同時に最悪のシナリオになるわけではありません。エネルギーについてはIEAの115ドル予測とJ.P. Morganの60ドル予測の間に大きな幅があり、中東情勢次第でシナリオは変わります。大事なのは「どのシナリオでも自社が打てる手を持っておくこと」です。
中小製造業への直撃——大企業と同じ対策が使えない理由
大企業向けの「多様化しよう」「長期契約を結ぼう」という対策論は正しいですが、中小製造業にそのままは使えません。実際にどんなギャップがあるか、整理します。
先日、中小部品メーカーの方から聞いた話です。
多重不足に備えて、半導体チームはマイコン6ヶ月分を先行発注、原材料チームは鉄鋼・アルミの安全在庫を1.5倍に積み増し、包装材チームもフィルム類を厚めに在庫確保——と、3チームがそれぞれ妥当な判断で動きました。
ところが合算してみると、社内倉庫のラックが早々に埋まり、郊外の外部倉庫を月数百万円で借りる羽目に。運転資金も想定の1.5倍に膨らんで短期借入の金利負担が重くなり、本来打てたはずのエネルギー先物ヘッジに回す資金まで残らなかった。結果、冬場の電力スポット高騰を丸ごと受けてしまった、と。
各チームは担当領域で正しく動いたのに、会社全体では倉庫費・金利・エネルギー費の三重苦です。個別最適の積み重ねが全体最適を損なう、典型的な形ですよね。
情報格差: 大企業は半年前から市場情報を掴んで動き始めます。中小企業に情報が届くのは、多くの場合「サプライヤーからの値上げ通知」という形で後追いになります。これは情報ネットワークの差です。
調達力格差: DRAM不足のような需給逼迫時、大企業の大量発注が優先され、中小への割り当てが後回しになります。汎用品でも、大口顧客優先は業界の暗黙ルールです。
資金力格差: 在庫積み増しの運転資金・追加で借りる外部倉庫の賃料・代替サプライヤーの承認費用・エネルギー契約のヘッジ原資——多重不足への備えは同時多発で資金を食います。KPMGの2026年3月のレポートも、中小企業ほどサプライチェーンリスクが「ブラックボックス化」しやすいと指摘しています。
さらに日本固有のリスクが加わります。日本はエネルギー自給率が約12%しかないため、円安・原油高・中東情勢のどれが動いても、輸入コストが直接跳ね返ってきます。他国なら国内のシェール・原子力・再エネで一部を吸収できる局面でも、日本の中小製造業には同じ逃げ道がありません。多重不足のコスト上昇を和らげる緩衝材が、構造的に薄いんですよね。
経営層への調達リスク説明に使えるシンプルな1枚資料のフォーマットは、いずれ整理してお伝えできればと思っています。
今日から始める3つの初動アクション
「多重不足の概念はわかった、でも何から手をつければいいか」——その答えを3つに絞ります。完璧な対策ではなく、「今日始められる初動」として考えてください。
Excelで縦軸に「①半導体 ②食料・農産物 ③医薬品原薬 ④重要鉱物 ⑤エネルギー ⑥物流キャパ」の6行を作り、横軸に自社の主要調達品目を並べます。各交点に「高(H)/中(M)/低(L)」の依存度と「代替可否(Yes/No)」を記入する。これだけで、自社の多重不足リスクマップの第一版が完成します。これを実際にやった中堅電子機器メーカーのケースでは、「6カテゴリに自社製品がこれだけ関係しているとは思わなかった」という気づきが経営会議での調達リスク説明のきっかけになったと聞きました。
自社の調達品目の中で、現在のリードタイムが25週(約6ヶ月)超の品目をリストアップしてみてください。マイコン・特定レアアース系部品・特定の医薬品原薬が候補です。次回の発注を2〜3ヶ月前倒しするだけで、緊迫した状況からある程度バッファが生まれます。
既存のサプライヤーとの月次ミーティングに、「今月の6カテゴリで変化はありましたか?」という議題を1個追加してみてください。サプライヤーも早期警告を出したいが、どう伝えればいいかわからないケースが結構あります。場を作ることで、早期に情報が入りやすくなります。
週1時間×4週間、これだけ投資すれば「多重不足リスクマップの初版完成→最重要品目の前倒し発注→サプライヤーとの情報共有強化」という3点が動き始めます。リソースが限られていても、できることはあります。
まとめ——多重不足時代の調達担当者として
今回の記事で伝えたかったことを3点に絞ります。
- ①同時性: 2026年は半導体・食料・医薬品・鉱物・エネルギー・物流の6カテゴリが「同時に」逼迫している。これが多重不足の本質。
- ②連鎖増幅: 各カテゴリは独立ではなく、エネルギー高→輸送コスト→全品目コストという連鎖でお互いを押し上げる。単品対応では追いつかない。
- ③構造的継続性: コロナ禍の一時的混乱と違い、今回の不足は地政学・気候変動・技術変革という構造的要因によるもので、2027年以降も形を変えて続く可能性が高い。
今すぐできる3ステップ:
- 6カテゴリ×自社依存度チェックシートを作る(1〜2時間)
- リードタイム25週超の品目を特定し、次回発注を2〜3ヶ月前倒す
- サプライヤーとの月次情報共有に「6カテゴリ動向」の議題を追加
これほど多くのリスクが重なる環境は、かなりきついです。
ただ、「多重不足」という概念を経営層へ説明し、社内の調達チームやサプライヤーと情報共有してみましょう。「見えない恐怖」から「対処できる課題」に変わる最初の一歩は、全体地図を持つことです。
