希望したわけでもないのに、ある日いきなり購買部への異動を告げられて、「自分にこの仕事が向いているのか」と、ひとり不安を抱えていませんか。
この記事は、こんな方に向けて書きました。
- 望んだわけでもなく購買・調達に配属され、何をすればいいか分からない方
- 「自分は調達に向いていないのでは」と、早々に感じはじめている方
- 向いてなさそうな部下をどう戦力化するか悩んでいる、指導役や上司の方
読み終えると、次の3つが手に入ります。
- 配属直後の「向いてない感」の正体と、判断を急がなくていい理由
- 調達で実際に伸びる人の特性と、現場で求められる能力
- 新人を3ヶ月で戦力化する、明日から使える育成の型
結論から言えば、調達の向き不向きは生まれつきではなく、最初の3ヶ月の関わり方でほぼ決まります。新入社員の指導員を7年務め、3名を育ててきた経験から、その理由を順にお話しします。
購買に配属された人が最初にぶつかる壁
配属直後にあなたが感じる最初の壁は、仕事内容の難しさではありません。
「自分で選んだわけではない」という、もやもやした不安そのものです。
ここでいう調達とは、会社が何をどこからいくらで買うかを決める一連の活動のこと。スーパーが食材を仕入れる流れに近いと思ってください。そのうち発注や契約の手続きを進める部分を購買と呼びます。
なぜ不安が生まれるのか。
選べる大手を除いて、割と多くの現場では、日本の調達職は「希望して来た人」ではなく「異動で来た人」だからです。製造や営売や品証から、本人の希望よりも社内の人員配置の都合で送り込まれる。だから戸惑って当たり前なんです。
私の経験では、配属直後の新人がいちばん固まるのは、発注システムの画面を前にして、誰に何を聞けばいいかも分からず手が止まる瞬間でした。「購買」と「調達」の違いさえ曖昧なまま、画面とにらめっこになる。そういう新人を、私は何人も見てきました。
実はこれ、海外でも同じです。購買部門は調達に向いた人ではなく、たまたま配属された人で埋まりがちだと言われています。戸惑いはあなただけのものではない。
次は、その「向いてない感」の正体を見ていきます。
「向いてない」と判断するのはまだ早い
先に結論をお伝えします。向き不向きの判断は、配属6ヶ月より前にはできません。最初に感じる違和感の正体は、向いていないことではなく、ただ業務に慣れていないこと。
向いてないのか、業務になれていないのか。この2つは、はっきり切り分けるべきです。
そもそも、職業の向き不向きを気にしているのはあなただけではありません。厚生労働省の調査では、キャリア相談を行う企業が社員に提供したいテーマとして「仕事の向き不向き」が45.3%にのぼっています。気にする人が多い、ごく自然な悩みなんですね。
配属されたばかりで、毎日が緊張の連続です。
本当に自分は向いていないんじゃないか、と不安でいっぱい…
その不安、今の段階で判断するのは時期尚早です。
多くの新人が同じ関所を通ります。大切なのは、最初の3ヶ月の関わり方です。
私の経験では、面白い逆転がよく起きます。「向いてない」と思われた新人が、相手の立場に立って考える力でサプライヤー(仕入先)との折衝に強くなり、頭角を現したことがありました。逆に「最初から向いてる」と見られた人が、半年で伸び悩んだこともあります。
最初の印象は当てになりません。もし向き不向きそのものを深く考えたくなったら、あわせて読みたい:調達に向いている人の適性とセルフチェックの記事も入口になります。
ですから、今の「向いてない感」だけで結論を出さないでほしいのです。では、調達では実際に何が求められるのか。次の章で具体的に見ていきましょう。
調達で実際に必要な能力(どれも育てられる)
調達に必要なのは、天性のセンスではありません。後から育てられる4つの能力です。折衝力、数値管理力、段取り力、構造理解力。この4つを順番に、育て方のヒントとあわせて見ていきます。
1つめが折衝力。
相手と条件をすり合わせて落としどころを見つける力です。価格や納期をめぐるサプライヤー(仕入先)との交渉で使います。
現場では、価格と納期のどちらを先に切り出すか、相手の最初の提示額をどこまで信じるかで結果が変わります。育てるなら、納期の前倒し依頼のような小さな折衝を意図的に任せるところから始めるのが効きました。
2つめが数値管理力。
見積比較やコスト分析の土台になる力です。数字へのこだわりが強い新人が、見積比較であっという間に頭角を現した例がありました。
これは3社の見積を並べて差額の理由を説明させる、を繰り返すと伸びます。
3つめは段取り力。
複数の品目について、発注から入荷までの時間軸を同時に管理する力です。
担当品目を1つずつ増やしながら納期表を自分で引かせると身につきます。
4つめが構造理解力。「
なぜこれが安く買えるのか」を問い続ける習慣のことです。たとえばボールペン1本100円が、プラスチック代・組み立て代・利益にどう分かれているかを考える。この値段の内訳(コスト構造)を読む力は、身近なモノの値付けを分解させる癖づけで育ちます。
生まれつきの素質を問う必要はありません。その代わり、最初の3ヶ月の関わり方が決定的な意味を持ちます。
もしあなた自身が当事者なら、今日はまず、自分の担当品目1つについて「なぜこの値段なのか」を3つの要素に分けて書き出してみてください。これが構造理解力の最初の一歩です。さらに具体的なスキルや資格を知りたい方は、あわせて読みたい:調達に役立つスキルと資格もあわせてどうぞ。
新人を3ヶ月で戦力化する育て方
育成の方法はこんな感じです。最初の3ヶ月は業務を広げず、定型業務に絞り、6ヶ月までに小さなコスト削減の成功体験を1つ作る。これが戦力化の近道です。
ここで一度立ち止まりますが、指導員が足りないのは、あなたの職場だけの問題ではありません。
厚労省の調査では、人材育成の課題として「指導する人材が不足している」が57.1%、能力開発計画を策定している企業は2割強にとどまります。体系的な育成が8割近い企業にない。
経営層に提案するなら、「育成が属人的なのは業界共通の課題で、当社だけの遅れではありません。だからこそ再現性のある型を仕組みにすれば、競合より早く新人を戦力化できます」と、この数値を一言目に添えると通りやすくなります。
私の経験では、教える順序が肝でした。最初の1週間は発注画面の読み合わせだけ、2週目から実際の発注入力を隣で一緒に、1ヶ月をめどに入荷確認まで一人で回せる状態を目指す。
OJT(実際の仕事をしながら先輩が教える育成方法)で1つずつ手渡し、半年までに「自分の交渉で少し安く買えた」という小さな成功を意図的に作る。この一勝が、本人の表情を変えます。投資としては指導員1名の時間が3ヶ月、特別な研修費はほぼ要りません。
1週目: 発注画面の読み合わせのみ
2週目: 実発注を隣で一緒に
1ヶ月: 入荷確認まで一人で
6ヶ月: 小さなコスト削減成功体験を1つ
最後に、気をつけたい点を2つ。
ひとつ、向き不向きを早期に決めつけないこと。もうひとつ、業務を最初から広げないこと。もし広げすぎたと気づいたら、いったん担当を1品目まで戻して立て直せば大丈夫です。
この型を複数の新人と指導員に展開できれば、3〜5年後には「誰が教えても新人が育つ」部門の地力になります。当事者の方は、これを自分への問いとして読み替えてみてください。
まとめ:明日からできる3ステップ
ここまでをまとめます。
- 配属直後の壁は、仕事の難しさより「自分で選んでいない不安」から来ます
- 向き不向きの判断は、配属6ヶ月より前には下せません
- 調達に必要な4つの能力は、どれも後から育てられます
- 最初の3ヶ月は型に絞り、小さな成功体験を1つ作るのが戦力化の近道です
そのうえで、明日からの3ステップです。
- まずは担当品目の発注フローを1つ、紙に書き出して全体像をつかんでみてください(当事者の方へ)
- 今日から、部下に任せる業務を3ヶ月分だけに絞り直してみましょう(指導役の方へ)
- そして、後輩に読ませる一記事として、この型を共有してみてください(中堅の方へ)
4つの能力――折衝力・数値管理力・段取り力・構造理解力のうち、あなた(あるいは育てている新人)が今いちばん弱いのはどれでしょうか。そこが、次に伸ばす場所です。
向いていないと感じる今は、伸びしろの裏返しでもあります。もし不安が強くなった日は、あわせて読みたい:調達が「つらい」と感じる瞬間と対処法も覗いてみてください。あなたの3ヶ月が、いい3ヶ月になりますように。
本記事で触れた「配属直後にまず身につける型」を、体系立てて一気に学びたい方へ。
