YouTubeショートから来てくださった皆さん、ようこそ。
「たった60秒じゃ語り尽くせない!」
動画では尺の都合でカットせざるを得なかった、もっと生々しく、もっと絶望的な「調達現場のリアル」をここで全て公開します。
あの動画のシナリオは、単なる空想ではありません。
資材調達の最前線に20年以上身を置き、サプライチェーンの裏側を知り尽くした私が、産業データに基づいて描いた「最も起こりうる未来のシミュレーション」です。
え、でも「中国 輸入 ストップ」なんて、本当に起こるんですか?ちょっと大げさすぎませんか?
甘いな。2010年の尖閣諸島問題では実際にレアアースの輸出制限があった。
外交カードとして使われる可能性は十分にある。
そして今の日本の依存度は当時よりもはるかに高いんだ。
もし明日、その日が来たら?
私たちの生活はどう崩れ、企業の調達担当者はどんな地獄を見ることになるのか。
あるメーカー勤務の資材課長「私」の視点で描く、30日間のドキュメント小説へようこそ。
小説:その日、日本が止まった
Day 1:日常が終わった日
朝の通勤電車。
スマホのニュースアプリを開くと、画面一面が赤い文字で埋め尽くされていた。
『中国政府、日本向け輸出の全面停止を発表』
「おいおい、また外交カードかよ……」
最初はそう思った。しかし、会社に着いた瞬間、その楽観は吹き飛んだ。
「課長! サプライヤーA社から電話です!『フォースマジュール(不可抗力)宣言』が出されました!」
「B社からもメール! 納期回答が全て『未定』に書き換わっています!」
「フォースマジュール(不可抗力)宣言」
自然災害や政府の規制など、企業が制御できない事態により契約履行が不可能になった際に発せられる宣言です。
この宣言により、サプライヤーは納期遅延や契約不履行の責任を免れることができます。
調達部のフロア中が怒号と電話の呼び出し音で埋め尽くされている。
部長が私のデスクに飛んできた。目は血走り、額には脂汗が滲んでいる。
「おい! お前の担当の電装部品はどうなってる! 代替案を昼までに出せ!」
代替案ってそんなに簡単に見つからないものなんですか?
製造業では「金型」という部品を作る型が重要なんだ。
特に精密な金型が、中国の主力工場にしかない場合が多い。
これは一朝一夕では作れないし、他国に移すにも膨大な時間とコストがかかる。
「部長、代替と言われましても……あのコネクタの金型は中国にしかありません」
「じゃあベトナムだ! タイだ! どこでもいいから探してこい! 工場を止めるな!」
無理だ。分かっていない。
私は胃の奥がキリキリと痛むのを感じながら、受話器を握りしめた。電話の向こうの商社担当者の声も震えている。
「無理です……コンテナは港で止められました。もう、日本には何も入ってきません」
サプライチェーン リスクは、単に「別の国から買えばいい」という単純な問題ではありません。製造設備、技術、品質管理システムまで含めた総合的な供給体制の問題なのです。
その夜、帰宅途中に寄ったドラッグストア。
Xで拡散された「#買い占め」のトレンドを見て、半信半疑で店に入った私は言葉を失った。
トイレットペーパーも、洗剤も、棚が空っぽだ。
カートに山盛りのカップ麺を積んだ主婦が、殺気立った目でレジに並んでいる。
まだ初日だぞ? なぜみんな、こんなに早いんだ。
Week 1:見えない「鎖」と現場の悲鳴
異変は、生活の足元から崩れ始めた。
週末、妻とスーパーへ行った。
「ねえ、ちょっとこれ見て」
妻が指差した先には、1個300円の玉ねぎ。
ニンニクは欠品。冷凍野菜コーナーは「お一人様1点限り」の札がかかっている。
「中国産が入ってこないから、国産に殺到してるのよ。食費どうしよう……」
日本の食品輸入において、中国からの輸入は野菜類で約50%、加工食品で約30%を占めています。
これが突然ストップすれば、価格高騰は避けられません。
娘が欲しがっていた文房具を買いに100円ショップへ。
しかし、店内はまるで閉店セールの後のようだった。乾電池がない。プラスチックの収納ケースがない。
「入荷未定」の貼り紙が、店内の至る所に増殖している。
100円ショップまで影響を受けるなんて…
100円ショップのビジネスモデル自体が中国の大量生産・低コスト製造に依存している。
商品の8割以上が中国製だから、供給が止まれば店舗運営自体が成り立たなくなるんだ。
そして会社では、恐れていた事態が起きた。
「ライン、止まります」
工場長の沈痛な声が響く。
「なんでだ! ベトナム工場からの入荷はあるだろう!」と叫ぶ役員に、私は静かに、しかし残酷な事実を告げなければならなかった。
「専務。ベトナムで作っているのは最終組立だけです。
あの製品に使っている鋼材と樹脂原料、そして梱包材。
これらは全て中国から輸入してベトナムへ送っています。
中国が止まった今、ベトナム工場には材料がありません」
「チャイナ・プラス・ワン」戦略の盲点:
生産拠点を中国以外に分散しても、原材料や部品供給が中国に依存していれば、資材調達 リスク管理は根本的に解決されません。
「……なんだそれは。じゃあ、ベトナム工場はただの箱か?」
「今の状況では、そうです」
役員たちは絶句し、私は自分の無力さに歯ぎしりした。
リスク分散のために進めたはずの「チャイナ・プラス・ワン」。
しかし、私たちは地図上の生産地を変えただけで、サプライチェーンの深層(Tier 2, Tier 3)までは管理できていなかったのだ。
Month 1:文鎮化する社会、沈黙する工場
あれから1ヶ月。世界は一変していた。
私のスマホの画面が割れた。以前なら修理店へ行けば30分で直った。
「お客さん、無理です。交換用ディスプレイもバッテリーも入ってきません」
店員は力なく首を振った。
スマートフォンの部品供給において、ディスプレイの約70%、バッテリーの約60%が中国で製造されています。
修理用部品の供給が止まれば、修理サービス業界全体が機能停止に陥ります。
新品も買えない。中古市場では、5年前のiPhoneが新品以上の価格で取引されている。
修理もできない。私のスマホは、ただの高価な文鎮と化した。
「文鎮化」とは、電子機器が故障して本来の機能を失い、文鎮のような重りとしてしか使えなくなることを指すIT用語です。
街からは「家電」が消えた。
トースター、コーヒーメーカー。
これらの中国依存度は95%を超える。壊れたら最後、二度と手に入らない。
「モノがない」だけではない。「直せない」のだ。
そして、私が勤めるメーカーにとっての「死刑宣告」が下された。
ハイブリッド車の駆動モーターに使う「レアアース(希土類)」の在庫が尽きたのだ。
レアアースって、多くはないですが他の国でも掘れそうな気がするんですが…
それが大きな誤解なんだ。レアアースは鉱石としては少ないながらもある程度他の国にもあるが、それを使える状態に「精錬」する技術と設備は中国がほぼ独占している。
中国レアアース支配の実態についてはこちらの記事で詳しく解説しているよ。
「磁石メーカーから連絡がありました。レアアースの供給が完全に途絶えたため、生産不能と」
私は会議室で、淡々と報告した。もう怒鳴る気力も残っていない部長が、天井を見上げて呟く。
「レアアースなんて、他の国にも多少は埋まってるんじゃなかったのか……」
「掘れても、精錬できません。モーターに必要な重レアアースの精錬能力は、中国がほぼ100%を握っています。他国から買うなんて、物理的に不可能です」
重レアアース(ジスプロシウム、テルビウム等)の精錬能力において、中国のシェアは99.8%に達します。風力発電機にも同様の技術が使われており、中国風力発電技術への依存も深刻な問題となっています。
工場は無期限の操業停止。派遣社員の契約解除が始まり、社員の給与カットも発表された。
ニュースでは、医薬品(特にジェネリック)の原料不足で手術が延期されていると報じている。
私たちは悟った。「日本製」だと思っていた私たちの生活、そして誇り高き日本のモノづくりが、実は見えないパイプで大陸と繋がり、そのパイプが切れた瞬間、呼吸すらできなくなることを。
これは「不便」なんてレベルじゃない。「心停止」だ。
【解説】なぜ「他国から買えばいい」が通用しないのか?
小説パート、いかがでしたか?
「調達担当者、無能すぎない?」と思いましたか?
しかし、これが現実です。個人の努力でどうにかなるレベルを超えているのです。
でも実際、プロの調達担当者でも対処できないものなんですか?
残念ながらそうなんだ。これから説明する3つの理由を見れば、なぜ「中国 輸入 ストップ」がこれほど深刻なのか理解できるはずだ。
プロでも回避不能な「3つの絶望的な理由」を解説します。
「レアアース」という名の首輪
小説内で工場停止の決定打となった「レアアース」。
EVやハイブリッド車のモーターに不可欠な強力な磁石(ネオジム磁石)を作るには、ジスプロシウムやテルビウムといったレアアースも必要です。
衝撃的な事実をお伝えします。
このレアアースの精錬能力の99.8%を、中国が支配しています。
鉱石自体は他国でも採れます。
しかし、それを泥の中から取り出し、使える状態にする「精錬工程」は、環境汚染が激しいため、先進国は嫌がり、中国一国に押し付けてきました。
その結果、中国が蛇口を閉めれば、世界中のモーター生産が止まることになってしまいました。
代替工場を作るには、環境対策を含めて5年以上かかります。
その間、日本の自動車産業は完全に沈黙します。
「Made in Vietnam」の罠(生地がない!)
「中国がダメならベトナムで作ればいい」という声を聞きますが、これは素人の発想です。
日本の衣料品輸入のうち、中国製は約60%ですが、ベトナムなどの他国生産品も、その原材料(生地・糸・ボタン)の約6割を中国から輸入しています。
つまり、中国の物流が止まれば、ベトナムの工場には生地が届かず、ミシンは動きません。実質的な依存度はほぼ100%なのです。
命取りになる「10週間」のルール(品質認証プロセス:PPAP)
仮に、奇跡的に代替工場が見つかったとしましょう。しかし、すぐに生産はできません。
特に自動車には、厳格な品質認証プロセス(PPAP)があります。
PPAPって何ですか?
Production Part Approval Processの略で、「生産部品承認プロセス」のことだ。
新しいサプライヤーの部品が安全基準を満たしているかを証明するために必要な手続きで、自動車業界では必須なんだ。
「安全です」と証明するための耐久テストや膨大な書類作成に、最短でも10〜14週間かかります。
この約3ヶ月間、部品は1個も納入されません。
在庫を持たない「かんばん方式」の工場にとって、10週間の供給停止は死を意味します。
結論:絶望の先で、私たちはどう生き残るか?
この記事を読んで、正直かなり不安になってしまいました…
本当にこんなことが起こるんでしょうか?
その気持ちはよく分かるよ。でも「怖かった」で終わらせちゃダメなんだ。
サプライチェーンリスクは確実に存在するけど、しっかり準備すれば対策できるからね。
20年の経験を持つ資材調達のプロとして、「一般消費者」と「企業の調達部門」、それぞれの立場で調達リスク管理をどう進めるべきかを提言します。
【一般の方へ】「安さ」の裏にあるリスクへの投票をやめる
- 「なぜ安いのか?」を想像する
100円ショップの雑貨や、格安のファストファッション。
その安さは、サプライチェーンを極限まで中国依存に集中させ、リスクを無視することで成り立っています。
私たちが「安さ」だけを求め続ける限り、企業はコストダウンのために中国依存を深めます。
「少し高くても、供給元が分散されている商品を買う」。
これは、あなた自身の生活を守るための投票行動です。 - 生活防衛としての備蓄(ミニマリストの卒業)
「必要な時に買えばいい」という考えは、平時の贅沢です。
トイレットペーパー、常備薬、保存食。
これらは「買い占め」ではなく、平時に少し多めに持っておく「ローリングストック」(普段から少し多めに買い置きし、使った分だけ補充する方法)を徹底してください。
有事の際、物流が回復するまでの数週間、あなたと家族を守る唯一の手段になります。
一般消費者の皆さんの購買行動が、企業のサプライヤー管理戦略を左右します。
「安さ」だけでなく「安定供給」も重視した商品選択が、結果的に自分自身を守ることにつながるのです。
【製造業・調達担当の方へ】「コスト削減」から「供給防衛」への転換
ここからは企業調達担当者への提言です。
- サプライチェーンの「完全可視化」
「1次サプライヤー」(直接の取引先)の管理だけでは無意味です。
「その部品の材料(2次)は? その原料(3次)は?」
特にマグネシウムや化学原料など、ボトルネックになり得る素材まで遡って地図を描いてください。
「分からない」は職務放棄と同じです。商社を使ってでも、全てのルートを丸裸にしてください。
多くの企業が「1次サプライヤーまでしか把握していない」のが現実です。
しかし、サプライチェーンリスクは2次、3次の奥深くで発生することが多いのです。
- 「戦略的在庫」の正当化(脱・在庫悪玉論)
「在庫は悪」「キャッシュフローの敵」。この古い常識と戦ってください。
代替が効かないクリティカルな部品(専用金型品、電子部品、レアアース使用品)については、「半年分の戦略的在庫」を持つことを提案すべきです。
保管コストはかかります。
しかし、ラインが止まって会社が倒産するリスクに比べれば、それは「安い保険料」です。
これを経営層に数字で説明するのが、あなたの仕事です。 - 調達の「複線化」と「品質認証」の先行投資
「何かあったら切り替える」では遅いことは、PPAP(Production Part Approval Process:量産部品承認プロセス)の壁で証明されています。
平時のうちに、コストが割高でもベトナムやインド、あるいは国内メーカーから一定量を購入し、品質認証を通しておく(口座を開いておく)こと。
これを「無駄なコスト」と呼ぶ会社に、未来はありません。
真の供給安定化とは、単にサプライヤーを増やすことではありません。
いざという時に即座に切り替えられる、認証済みの代替調達先を確保しておくことなのです。
調達リスク管理の本質は、平時にコストをかけてでもリスクを分散させておくことです。
「コスト削減」から「供給防衛」への発想転換が、これからの調達部門には不可欠です。
最後に
「日本沈没」のシナリオは、回避可能です。
ただし、それには「安心にはコストがかかる」という事実を、私たち全員が受け入れる必要があります。
「リスクを見抜き、コストをかけてでも供給を守る」。
この意思決定ができる人材こそが、これからの時代に求められる真のプロフェッショナルです。
サプライヤー管理の専門性を高め、サプライチェーンリスクを予測・回避できる調達担当者になることが、あなた自身のキャリアアップにもつながります。
