コスト削減の限界を感じているあなたへ
「またコスト削減か…。良いサプライヤーも見つからないし、どうすれば…」
そんな風に、日々の価格交渉と品質問題の板挟みで、ため息をついていませんか?
実は私も、ドイツの展示会で見つけた欧州メーカーとの取引で、目先のコストに飛びついて大失敗した経験があります。あの時の胃がキリキリするような感覚は、今でも忘れられません。
この記事は、かつての私のように悩むあなたのために書きました。
この記事で得られること
・コスト削減以外の「新たな武器」を手に入れ、社内でのあなたの評価が変わる
・サプライヤーが、あなたの「最強の味方」に変わる具体的な方法がわかる
・日々の業務が「管理」から「価値創造」へと変わり、仕事がもっと面白くなる
戦略的調達の第一歩:サプライヤー関係性マップの作成

さて、いきなりですが、あなたの手元にあるサプライヤーリストを眺めてみてください。
それは単なる取引先の一覧ですか?それとも、あなたの会社を強くするための「戦略資産」に見えるでしょうか?
「そんな大げさな…」と思うかもしれませんね。
でも、市場の変化が激しい今、その「リスト」を戦略的に見直すことが、将来の競争力を左右する、ものすごく重要な一手になるんです。
政府も経済安全保障推進法でサプライチェーン強靱化の取組を進めています。
地政学リスクや自然災害など、不確実性が高まる中で、個々のサプライヤーとの関係性の質が、事業継続の生命線となる時代なのです。
すべてのサプライヤーを同じ熱量で担当するのを、今日でやめましょう。
まずやるべきは、どの企業と関係を深め、どの企業とは現状維持で良いのか、冷静に「分類」することです。
サプライヤー管理の4象限マトリクス

調達品目を2つの軸で考えてみてください。
| 自社への影響が大きい | 自社への影響が小さい | |
|---|---|---|
| 調達が難しい | ①戦略品目 パートナーシップ重視  | ③ボトルネック品目 安定供給確保  | 
| 調達が易しい | ②レバレッジ品目 競争によるコスト最適化  | ④非戦略品目 効率化・自動化  | 
①戦略品目:
会社のコア技術や主力製品に直結し、代わりを見つけるのが難しい品目の最重要サプライヤーです。
ここにこそ、あなたの時間と情熱を注ぐべき。
②レバレッジ品目:
購入金額が大きいが、複数のサプライヤーから購入できる品目。
ここでは、公正な競争を促し、コスト効率を追求することが有効です。
③ボトルネック品目:
購入金額は小さいが、特殊で供給不安。
これが止まると、たとえ安価な部品でも生産全体が滞る危険をはらんでいます。
④一般品目:
購入金額が小さく、供給も安定している品目。
調達における「日用品」のような存在です。
コスト重視の落とし穴

マップを作って、関係を深めるべき「戦略的パートナー候補」が見えてきた。
では、そのサプライヤーは本当に信頼に足る相手なのでしょうか?
ここで、私の大失敗談をお話しさせてください。本当に、思い出すだけで冷や汗が出ます…。
機械部品の調達で、従来サプライヤーより30%も安い見積もりを出してきた欧州の中小企業、A社がありました。
正直、最初は半信半疑。それでも、品質はそこそこ悪くない。
気づけば、A社からの調達がじわじわと増えていました。
もちろん、経営状況の定点チェックはしていました。
取引開始前に赤字の年があったのは把握していましたが、「まあ、今は黒字だし大丈夫だろう」と。
それに、製造部門からは「A社のコストは魅力的だ」と背中を押される毎日…。
私も、その安い価格を基準に、他のサプライヤーへ価格交渉をするようになっていました。
完全に、コストの魔力に取り憑かれていたんですね。
そして数年後、その日は突然やってきました
A社が、経営悪化で倒産。
現場は大パニックです。
他のサプライヤーに増産をお願いしても「生産キャパが一杯で無理だ」と断られる始末。
私は大急ぎで代わりのサプライヤーを探すことになり、数週間、ほとんど家に帰れない日々が続きました。
何とか代替先を見つけて生産ラインを止める最悪の事態は避けられましたが、失った時間と労力は計り知れません。
この失敗から得た教訓
「サプライヤー選定は、一時的な魅力で判断する恋愛ではなく、長期的な信頼性で選ぶ結婚のようなものだ」 
QCDを超えた多面的サプライヤー評価軸

従来のQCD(品質、コスト、納期)という物差しだけでは不十分です。
真のパートナーを見極めるためには、以下のような、より多面的な評価軸が必要不可欠。
- コスト競争力・納期対応力(もちろん基本!)
 - 財務健全性(倒産リスクはないか?)
 - BCP(事業継続計画)対応(災害時に供給は止まらないか?)
 - 技術開発力(未来の製品を一緒に作れるか?)
 - サステナビリティへの取り組み(環境・社会への配慮はあるか?)
 - 改善提案への積極性(もっと良くしよう、という意志はあるか?)
 
評価は、一方的に通信簿をつけるためにあるのではありません。
評価結果をサプライヤーと共有し、
 「あなたの会社のこの技術力は素晴らしい。
  一方で、BCPの観点が少し弱いので、一緒に強化策を考えませんか?」
と、次なる改善に繋げるための対話のキッカケにするのです。
価値共創パートナーシップの実践的構築法

さあ、いよいよ核心です。
見極めたパートナー候補と、いかにして唯一無二の関係を築いていくか。
それは、まるで植物を育てるような、丁寧で、根気のいるプロセスです。
1. 土壌を耕す:ビジョン共有
種をまく前に、土壌を耕す必要があります。
つまり、あなたの会社のビジョンや調達方針を、きちんとサプライヤーに共有すること。
「うちの会社は3年後、こんな製品で世界を驚かせたい。
そのためには、あなたの会社の〇〇という技術が不可欠なんです」
こう伝えるだけで、彼らの目の色が変わります。
自分たちの仕事が、単なる部品作りではなく、もっと大きなストーリーの一部なのだと理解できるから。
2. 成功事例:中国B社との2年間の価値共創プロジェクト
土壌が整ったら、いよいよ具体的なアクションです。
ここで、私の体験をお話しさせてください。
中国で、機械部品のサプライヤーを探していた時のことです。
B社という、中国では大手の企業を見つけましたが、正直、品質レベルは私たちの要求には程遠い状態でした。
普通なら、ここで諦めてしまうかもしれません。
でも、私たちは「一緒に課題を解決する」というアプローチを選びました。
技術チームは月に1度、広東省にあるB社の工場へ足を運び、現場の技術者と膝詰めで議論を重ねました。
私も調達担当として、
「これは一度きりの取引ではない。数年、数十年と続くパートナーシップを本気で考えている」
という会社の意志を、何度も、何度も伝え続けました。
重要部品だったため開発は難航を極め、採用にこぎつけるまで、実に2年という歳月がかかりました。
採用が決まった日、B社の担当者と現地のレストランで乾杯した祝杯の味は、私の人生で最高の味でしたね。
3. パートナーシップがもたらした予想以上の成果
本当の果実は、その先に待っていました。
・私たちの要求に応える中で、B社は全社的な品質管理レベルが向上した
・信頼関係が生まれ、私たちが探している別の部品についても、B社から「良い会社がある」と紹介してもらえるようになった
・後日、競合他社から好条件でアプローチされても、B社は「彼らとの約束があるから」と断ってくれた・
この経験から得た教訓はシンプルです。
「課題を共有し、一緒に解決しようと汗をかく姿勢」こそが、最強の関係構築方法である、ということ。
発注者と受注者という、乾いた関係ではありません。
共通のゴールを目指す「パートナー」として、時には厳しい要求をし、時には相手の努力を心から称賛する。
この人間的な付き合いこそが、お金では買えない強固な信頼を育むのです。
今すぐ始められる!戦略的調達改善アクションプラン

さて、長い道のりでしたが、いかがでしたでしょうか。
優れたサプライヤーは、どこかから都合よく「見つかる」ものではありません。
自社の戦略に基づいて「選び」、そして能動的に関わることで、ゆっくりと「育てる」存在なのです。
核心となる考え方
サプライヤーとの関係構築は「短期的な取引」ではなく「長期的な投資」である 
コストという分かりやすい指標だけに頼るのではなく、未来への価値を共に創り上げていく。
その視点を持つことが、これからの調達担当者には不可欠です。
あなたの目の前にあるサプライヤーリストは、もはや単なる業者一覧ではないはず。
無限の可能性を秘めた、未来のパートナー候補リストに見えませんか?
明日から始める3つのステップ
Step1:
まずは担当サプライヤーを3社だけ選び、戦略的/レバレッジ/ボトルネック/一般の4象限に分類してみましょう。
Step2:
最も重要だと感じた「戦略的パートナー候補」1社との、次回の面談アジェンダを考えてみてください。
最初の5分で良いので、コスト以外のテーマ(例:業界の最新動向、技術トレンドなど)について対話する時間を設けてみませんか?
Step3:
その対話で感じたこと、得られた情報を、小さなメモで良いので記録に残す。
この小さな積み重ねが、やがて大きな資産になります
「管理」する調達から、「共創」する調達へ。
その変化は、あなたの仕事を、そしてあなたの会社の未来を、きっともっと面白くしてくれるはずです。
あなたの調達キャリアが次のステージへと飛躍することを、心から応援しています。
