IEEPAが無効になったって聞いたんですけど、もう関税の心配はないんですよね…?
実はね、IEEPAが消えた直後に、もっと強力なツールが動き出したんだ。今日はその話をしよう。
こんな方におすすめの記事です
・「IEEPAとSection 301の違いがよくわからない」と感じている調達担当者・購買マネージャー
・米国に拠点をもつ会社のバイヤー
・「4月15日コメント締切」という言葉を聞いたが、何をすべきかわからない方
IEEPAが消えた直後に動き出したSection 301——2026年3月に何が起きたか
2026年2月20日、米国連邦最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税を6対3の多数決で無効と判断しました。Roberts首席裁判官が執筆した判決は「IEEPAは関税を課す権限を大統領に与えていない」という論点で、IEEPA関税をすべて否定したものです。(ただし多数派6名の中でも理由付けは分かれた)
ここで多くの担当者が「よかった、これで関税問題は終わり」と感じたのは自然なことです。
でも、約3週間弱の3月11日に何が起きたか、ご存知でしょうか。
米国通商代表部(USTR)は、「構造的過剰生産能力」を理由に16の国と地域に対してSection 301調査を開始すると発表しました。中国、EU、日本、インド、メキシコ、そしてインドネシア・マレーシア・タイ・ベトナムといったASEAN諸国——日本はその16カ国に名指しで含まれています。
Baker Bottsの通商チームは、この動きを「Plan B」と称しました。IEEPAが裁判所に消えた直後、USTRはより法的に強固なツールへと乗り換えた、ということです。「終わった」のではなく、「より根深いフェーズに移行した」——これが現実に起きていることです。
Section 301とは何か——USTRが1974年から持つ「通商の番人」の仕組み
Section 301は1974年の通商法に基づく権限です。ひと言で言えば、「外国政府の不合理または差別的な慣行が米国の通商を負担または制限していると認定した場合、USTRが関税などの措置を取れる」というものです。
IEEPAが大統領の緊急権限として機能するのに対して、Section 301はUSTRという行政機関が「調査→コメント収集→公聴会→認定→関税賦課」という一連の適正手続きを経て発動する仕組みになっています。この違いがあとで重要になります。
今回の調査で対象となったセクターは21分野。かなり広いです。
| セクター | 主な調達品目例 |
|---|---|
| 鉄鋼 | 鋼材、構造材、SUS材 |
| アルミニウム | アルミ板・棒材 |
| 自動車 | 完成車、プレス部品 |
| 電池 | EV用電池、産業用電池 |
| 化学 | 工業用化学品、樹脂 |
| 電子機器 | 基板、コネクタ、センサー |
| 半導体 | IC、ディスクリート部品 |
| 機械 | 産業機械、工作機械 |
| 輸送機器 | 自動車部品、船舶部品 |
| ロボット | 産業用ロボット |
(他にも紙・プラスチック・ガラス・セメント・太陽光・衛星等が含まれます)
この表を見て「うちが調達してる品目が入ってる」と感じた方は多いでしょう。正直なところ、製造業の調達担当者で対象外の方を探す方が難しいかもしれません。
そして日本への調査の根拠として、USTRは何を挙げたか。
意外なことに「貿易黒字・自動車輸出」だけではありません。USTRが日本に向けた疑惑は「非市場的勢力に支えられた不採算企業の継続操業」——いわゆるゾンビ企業問題もあげられました。補助金で生かされた企業が過剰生産を続けることで、市場の均衡が歪められているというロジックです。
IEEPAとSection 301の決定的な違い——なぜ今回は「逃げ場が少ない」のか
2つの関税ツールの違いを並べると、こういうことになります。
| 比較軸 | IEEPA関税 | Section 301関税 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 大統領の緊急権限 | USTRの行政調査・認定 |
| 手続き | 大統領令1本で発動 | 調査→コメント→公聴会→認定 |
| 法的耐久性 | 低(最高裁で無効化) | 高(適正手続きを経るため) |
| 取消しやすさ | 大統領令で即座に撤回可能 | 4年ごとに延長手続き。業界団体が延長を求め続ける |
| 現在の状態 | IEEPA関税は終了 | 調査中(4/15コメント締切) |
IEEPAが無効になった理由は「手続きの正当性」の欠如でした。
大統領の緊急権限という根拠は「緊急事態が終われば消える」し、「そもそも関税を課す権限がない」と裁判所に判断されれば即座に終わります。
Section 301は違います。USTRが適正な調査プロセスを踏んで「外国の慣行が米国通商を負担している」と認定すれば発動できる。しかも4年後に延長申請が行われれば、期限なく継続できます。業界団体から見れば「関税を延長するよう申請する」動機が常に存在するため、政治的にも消えにくい構造があります。
では、Section 301が「本当に一時的ではない」という証拠はあるのでしょうか。
あります。
Section 301は一時的な措置ではない——中国に7年間続いている現実
2018年7月6日、USTRは中国に対してSection 301に基づくList 1の関税を発動しました。税率は25%。対象は電子部品・産業機械・化学品など約340億ドル相当の品目です。
それから7年以上が経ちました。今も続いています。
バイデン政権は基本的にこの関税を維持し、一部品目はむしろ引き上げました。当時「トランプ政権が終わればなくなる」と思っていた調達担当者は結構多かったはずです。実際のところ、政権が変わっても業界団体が延長申請を出し続ける限り、Section 301は維持されます。これが「法的耐久性が高い」という意味の、いちばん分かりやすい証拠です。
じゃあ、中国を避けてASEANから調達すればリスク回避できる……?
残念ながら、インドネシア・マレーシア・タイ・ベトナムも今回の16カ国に含まれているんだ。
China+1戦略が同じリスクを抱えている可能性がある。
どのHSコードがどのリスクレベルに属するか、品目ごとに整理した分類表はそれだけで1記事分のボリュームになるので、別の機会に詳しく解説しますね。
タイムラインと今すぐやるべき3つのこと——Howの概要
現時点(2026年4月3日)での状況を整理します。
| 日付 | イベント |
|---|---|
| 2026年2月20日 | 最高裁がIEEPA関税を無効化 |
| 2026年3月11日 | USTRがSection 301調査を開始(16カ国対象) |
| 2026年4月15日 | ◀ コメント・公聴会出席申請の締切 |
| 2026年5月5日 | 公聴会開始 |
| 2026年7月下旬予定 | 関税発動の可能性(Section 122失効と時期が重なる) |
| 2026年以降 | 延長無制限(中国向けは7年以上継続中) |
4月15日までに、できることが3つあります。
既存の品目マスターを使って、どの品目がSection 301の22セクターに属するかをチェックします。
これで「うちが動かなければいけない品目はどれか」の全体像が見えます。
上位10〜20社に「現在の対米輸出売上比率はどのくらいか」を確認してください。今の時点では関税が発動していないため、サプライヤー側も情報を開示しやすい状況です。
関税が発動した後では、値上げ交渉の形になってしまい、本音の情報が取りにくくなります。
日本鉄鋼連盟、JEITA(電子情報技術産業協会)、自工会(日本自動車工業会)などの業界団体が、コメント提出に向けた動きをしている可能性があります。
所属している業界団体があれば、4月15日の締切に間に合う情報を収集してください。個別企業での対応が難しい場合でも、業界として声を上げる機会があります。
まとめ——「Section 301は一時的ではない」という認識がスタート地点
この記事でお伝えしたことを3点に絞ります。
- Section 301はIEEPAと根本的に異なる法的耐久性を持つ
USTRが適正手続きを経て認定する仕組みのため、裁判所に消されにくい。中国向けは2018年から7年以上継続中です。 - 日本は対象22セクターを含む16カ国の一つとして正式に調査対象となっている
鉄鋼・アルミ・自動車・電子機器・半導体など、製造業の主要調達品目がほぼ全て射程に入っています。 - 4月15日が唯一の公式コメント機会。まず品目の突き合わせから始める
「様子見」は戦略ではありません。「何が対象か」を把握するだけでも、着手できます。
通商政策は、発動してから対処するのでは遅すぎます。20年の調達経験で何度も見てきました。早く動いた会社が、混乱を乗り切っています。
Section 301によって米国拠点の仕入コストが上昇したとき、サプライヤーとどう交渉するか——それが次の戦いです。
