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資材調達の「原価企画」入門|製品の価値をデザインする上流工程からの関わり方

もっと早く相談してくれれば、もっと安くできたのに…

日々の価格交渉に追われる中、そう感じたことはありませんか?

新製品のリリースを目の前にして、量産準備に大忙し。
調達部門はコストの最後の詰めを任されます。

つまり、全部材サプライヤへ、ただただ価格交渉に奔走する日々。
そんな時、ふと芽生えた「この仕事、もっと面白くできるんじゃないか?」という想いが、調達キャリアの転換点でした。

こんな方におすすめの記事です

・価格交渉のスキルだけでは限界を感じている、5年目以降の調達・購買担当者
・もっと上流工程から製品開発に関わり、自分の仕事の価値を高めたい方
・調達としての専門性を武器に、将来のキャリアアップを目指している方

この記事で得られること

・単に価格交渉する「コストカッター」から「価値創造のパートナー」へと進化するための思考法
・明日から現場で実践できる、具体的なコスト分析の知識
・5年後、10年後も生き残るための、戦略的なキャリアパスの描き方

目次

衝撃の事実!製品コストの8割は源流で決まる

なぜ、私たち資材調達担当者がもっと上流から関わるべきなのか?
その答えは、製品のライフサイクルコストの約8割が、企画・設計という開発の初期段階で、実質的に決まってしまうからです。

電子機器のプロジェクトで、量産直前に

市場での競争が厳しいから、目標コストをあと3%下げろ!

という無茶な指示が下りてきたのです。
必死にサプライヤー各社と連日交渉し、文字通り1円単位のコストを削り取り、なんとか目標を達成。

しかし、その直後、設計部門から

ある部品の仕様を変更しまーす

と連絡が。

え、今から仕様変更?
ふざけないでください!

設計者も量産直前であることは分かっているので、必要な仕様変更なのでしょう。

しかし、そのたった一つの変更で、私が血のにじむ思いで削減したコストの、何倍ものコストが跳ね上がってしまったのです。

下流でコスト削減をいくら頑張っても、源流である上流で決まったことの影響は覆せません

従来の原価管理 vs 原価企画の違い

従来の原価管理(コストプラス方式)
「製品を設計し、かかったコストに利益を乗せて売価を決める」という考え方です。
いわば、社内の都合を優先する「内から外へ(Inside-Out)」のアプローチ。

原価企画(ターゲットコスティング)
その論理を完全に逆転させます。
「市場が受け入れる価格から、確保したい利益を差し引いて、許容されるコスト(目標原価)を算出する」という考え方。
市場を起点とする「外から内へ(Outside-In)」のアプローチです。

項目原価企画
(Target Costing)
従来の原価管理
(コストプラス方式)
思想市場主導型
「プライス・マイナス」
原価主導型
「コスト・プラス」
出発点市場によって決まる目標販売価格見積もられた製造原価
コストの位置づけ達成すべき管理可能な「目標マークアップされる「結果
管理のタイミング上流工程
(企画・設計段階)
下流工程
(製造段階)
サプライヤーの役割設計に関与する戦略的パートナー指示された仕様の部品を供給する取引相手

この表を見て、どこに一番ワクワクしますか?

私は、「サプライヤーの役割」です。
単なる取引先ではなく、価値を共に創るパートナーへ。

ここに、私たちの仕事が劇的に面白くなるヒントが隠されています。

興奮の瞬間!開発プロセスで調達が輝く場所

「理屈は分かったけど、具体的にいつ、何をすればいいの?」と思いますよね。

原価企画のプロセスにおいて、私たち調達担当者が目立てる瞬間は、開発の各フェーズに存在します。

【企画・構想段階】未来を予測する情報提供者

この段階では、まだ製品の具体的な形は見えていません。
だからこそ、私たちの出番です。

具体的なアクション:

・原材料の価格動向、供給市場のトレンド、地政学的リスクといったマクロな情報を提供する

・新製品のコンセプトを実現しうる、最先端技術を持つサプライヤーの情報を設計部門に提供する

成功体験です。
当時、設計チームは筐体の小型化と軽量化に頭を悩ませていました。
そこで私は、普段から情報交換していたA社の担当者が「新しい加工技術を開発した」と話していたのを思い出したのです。
すぐさまA社と自社の設計チームの技術紹介の交流会を設定。
結果、その新技術の採用が決まり、従来比で30%の軽量化と、目標原価を5%下回るコストを達成できました。

【設計・技術検討段階】価値を創造する共創者

ここでは、図面が引かれ、具体的な仕様が固まっていきます。
まさにコストの作り込みが行われる、最も重要なフェーズです。

具体的なアクション:

・技術部門の設計会議に積極的に参加し、「この機能は本当に必要?」「もっと安い工法はない?」と疑問を投げかける。

・サプライヤーの知見を活かし、より低コストまたは高性能な代替材料や部品を具体的に提案する。

・設計変更がコストに与える影響を迅速にフィードバックする。

とはいえ、設計部門はなかなか話を聞いてくれないのでは?という声が聞こえてきそうです。

その通り!彼らには彼らのプライドとこだわりがあります。

だからこそ、いきなりコストの話で真正面からぶつかるのは得策ではありません。

最近、こんな面白い材料を見つけまして…

このサプライヤは安くて技術力があるので、
他の事業部でも使って重宝しています。

と、まずは彼らにとってメリットのある情報を提供する「ギブ」の姿勢が、信頼関係を築く鍵となるのです。

無敵の武器庫!分析ツール

さて、ここからは原価企画を実践する上で、あなたの強力な武器となる分析ツールを紹介します。
これらを使いこなせば、サプライヤーとの力関係さえ変えることができるかもしれません。

脱・どんぶり勘定!「コストテーブル」

コストテーブルとは、製品のコストを「材料費」「加工費」「管理費」「利益」といった構成要素に分解し、体系的に整理した分析ツールです。

なぜこれが強力な武器になるのか?
それは、交渉の土俵を「価格の駆け引き」から「コスト構造に関する客観的な議論」へと変えることができるからです。

簡単な作成ステップ

✔️ 対象範囲の定義:
まずは特定の品目群(例:樹脂成形部品、切削加工部品など)に絞ります。

✔️ コストドライバーの特定:
コストに影響を与える主要な変数(例:部品重量、材料の種類、加工時間など)を洗い出します。

✔️ データ収集とモデル化:
過去の見積もりや実績データを集め、Excelなどで「部品重量〇gあたり、材料費は△円」といった簡単な計算式を作ってみましょう


完璧なものである必要はありません。
まずは自分なりの「ものさし」を持つことが、交渉の質を劇的に変える第一歩です。

VE/VA(Value Engineering・Value Analysis)の実践

VE/VAは、製品やサービスの「価値」を、機能とコストの関係から向上させる体系的な手法です。
その考え方は、以下のシンプルな方程式で表されます。

価値(V) = 機能(F) ÷ コスト(C)

製品やサービスの価値を向上させるためには、

1. 機能(F)を保ったまま、コスト(C)を下げる

のも方法の一つですが、この方程式に基づくと、他にも考えられます。

2. 機能(F)を上げて、コスト(C)を下げる
3. 機能(F)を上げて、コスト(C)を保つ
4. コスト(C)は上げるが、機能(F)をもっと上げる

私たちは、調達担当者として、特にコストに携わっています。
調達担当者が見つけやすいVE/VAの切り口には、以下のようなものがあります。

材料変更:
「この部品、本当にアルミの削り出しである必要がありますか?同じ機能なら、鋼板プレスで30%安く実現できませんか?」

工法変更:
「この部品は鋳造で作られていますが、プレス加工に変えることで、サイクルタイムを短縮しコストを下げられませんか?」

過剰品質の見直し:
「顧客が求めていないレベルの表面処理が施されていませんか?」

未来への羅針盤!原価企画が拓くあなたのキャリア

最後に、少し未来の話をしましょう。
原価企画のスキルを身につけることは、あなたの調達担当者としてのキャリアに、どのような可能性をもたらすのでしょうか。

近年、調達を取り巻く環境は激変しています。

  • AIによるコスト見積もりといったデジタルトランスフォーメーション(DX)の波
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から、サプライヤーの選定基準も大きく変化
  • 地政学的リスクやパンデミックによるサプライチェーンの寸断に備える、レジリエンスの構築も急務

原価企画スキルを持つ人材は、もはや単なる「バイヤー」ではありません。
製品の価値をデザインする「コストエンジニア」であり、会社の未来を左右する「調達戦略プランナー」です。

このスキルは、あなたの市場価値を確実に高め、キャリアの選択肢を大きく広げる、まさに最強の武器となるでしょう。

「AIに仕事が奪われるのでは?」と不安に思うかもしれません。

いいえ、逆です。AIが弾き出したコストデータを分析し、ESGや地政学リスクといった複雑な要素を考慮に入れ、最終的な意思決定を下す。

そんな戦略的な思考こそが、これからの調達担当者に求められる、代替不可能な価値になります。

まとめ:価格の交渉人から、価値の創造者へ

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
原価企画の重要性と、それがもたらす可能性を感じていただけたでしょうか。

最後に、あなたが今日からできる具体的なアクションを3つ提案します。

  1. 担当製品の図面を改めて眺める

    あなたの担当製品の図面をじっくりと見て、
    「この部品の本当の機能は何か?」
    「なぜこの材料・この工法が選ばれたのか?」
    と、純粋な好奇心を持って自問してみてください。

  2. サプライヤーの見積書を分解してみる

    手元にある見積書を見て、その価格がどのような要素
     材料費
     加工費
     管理費
     利益  など
    で構成されているのか、自分なりに想像力を働かせて分解してみましょう。

  3. 設計部門の同僚との雑談

    いきなり「コストの話を」と意気込む必要はありません。
    まずは設計部門の同僚に「最近、何か面白い新技術とかないですか?」と、情報交換の雑談を持ちかけてみましょう。

価格交渉も、もちろん重要です。
しかし、決まった部品だけでなく、そこから一歩踏み出し、製品の価値そのものを創造する側へ回れたなら、あなたの仕事はどれほど創造的に・おもしろくなるでしょう。

その扉は、もうあなたの目の前にあります。
さあ、一緒にその扉を開けて、新しい調達の世界へ飛び出してみませんか。

この記事が、あなたの「やる気」に火をつけるきっかけになることを願っています。

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