レアアース脱中国は本当に可能か:採掘60%精製91%磁石94%の壁

「レアアースを使った部品の納期と価格が読めなくなった」。
そう思った調達担当者は少なくないはずです。原因をたどると、中国のレアアース輸出規制に行き着きます。供給網の上流の変化が、下流の自社調達まで届いてきています。

こんな方におすすめです
・レアアース系部品(永久磁石・モーター・センサ)を扱う製造業のバイヤー
・自社調達への影響範囲を整理できていない方
・「うちのレアアース依存は大丈夫か」と問われ、回答に詰まった管理職

得られるのは次の3つです
・「採掘60%・精製91%・磁石94%」という3段階集中構造の全体像
・2025年4月・10月の輸出規制が日本製造業の調達に何を起こしたか
・豪州・米国の代替先の現実性と、明日から着手できる3つの点検項目

目次

なぜ「採掘60%・精製91%・磁石94%」が脅威なのか

脅威の本質は、ひとつの数字ではありません。採掘で約60%、精製で約91%、永久磁石の製造で94%という3段階の集中が積み重なっている点にあります。
各工程で中国に頼った結果、最終製品の手前では逃げ場がほとんどない。これが構造の正体です。

まず採掘の60%。残りの4割は中国以外で掘られているため、「思ったより分散している」と受け取る方もいます。正直、私も最初はそう感じました。ところが、掘った鉱石はそのままでは製品に使えません。

次が精製の壁、91%です。分離・精製(鉱石から目的の元素だけを取り出す工程)は化学的に手間がかかり、環境負荷も大きい。豪州や米国で掘った鉱石でさえ、精製のため中国へ運ばれることがある。採掘が分散しても、精製という細い管に集まるのです。

最後が磁石の94%です。永久磁石(EVモーター等の強力磁石)の製造シェアは、20年前の約50%から94%へ倍近くに伸びました。EVモーター、風力発電機、MRI。最終製品の一歩手前まで中国を経由しているイメージです。IEAは2030年でも精製の77%が中国由来と予測しており、集中はすぐには崩れません。

磁石部品の調達は2〜3段階のサプライチェーンを経由するため、調達担当が直接レアアースを買うことはまれです。
部品やユニットを買っているだけなので中国産比率は見えにくく、間接リスクとして見落としやすい。
採掘は分散、精製は集中、磁石はほぼ独占。この3段階の重なりこそが、脱中国を難しくしている本丸です。

2025年中国輸出規制が調達現場に起こしたこと

規制の対象は、鉱物から部品、設備、技術の順に、わずか半年で広がりました。原料の話が、気づけば組み立て品や製造装置まで巻き込んでいく。この「広がり方」こそ身構えるべきです。

4月と10月、半年で二段階に広がった規制

中国は2025年4月4日、重レアアース(ジスプロシウム等。磁石の耐熱性を支える元素)を中心とする7鉱物に輸出規制をかけました。続く10月9日には5鉱物を追加し、対象を部品・設備まで拡大しています。
当初は「重レアアース中心で、軽レアアース(ネオジム等。磁石の主成分)への影響は限定的」との見方が主流でしたが、10月でそれが揺らぎました。

「物がない」のではなく「書類が動かない」

欧州価格が中国の6倍に達した時期もありました。
誤解しやすいのが、これを物理的な品不足と捉えることです。
中国の規制は輸出許可制(輸出時に政府の個別承認を要する制度)が軸で、在庫があっても許可という関所で詰まる。需給ではなく手続きのボトルネックなのです

複数の取引先から「見積が出せない」「納期回答が止まった」という問い合わせが入りました。物が無いのではなく、書類が動かない状態だったのです。

レアアース単独の問題では終わらない

慎重論にも一理ありました。ところが10月規制で対象が部品・設備へ拡大し、前提は崩れました。IEAによれば、重要鉱物全体の55%が何らかの輸出規制の対象です。

次に何が対象になるか誰も断言できない、この不確実性こそ本当のリスクです

3ステップで、自社への影響の見える化を行います。
①レアアース含有が想定される品目(永久磁石・モーター・センサ系)を抽出、
②各品目の精製地(加工国)をサプライヤー経由で確認、
③精製地が規制対象国に該当する品目を仕分けし、調達金額に対する比率を出す。

「自社の何%が規制対象範囲か」を掴めば、それが経営報告の出発点になります。

代替調達先の現実と、バイヤーが今すぐ点検する3項目

「中国を外す」ではなく「中国比率を下げる」が現実解です。採掘先を分散できても、精製を中国に頼る限り依存は形を変えて残ります。

豪州・米国は「育ち始めた選択肢」

代替先として名が挙がるのが豪州と米国です。
豪州のレアアース生産は世界の約8%(2023年)で、経済的実証資源量(採掘可能性が確認された埋蔵量)は7.36百万トンとされます。米国は年間生産量51,000トンで、中国の270,000トンに対し約19%の規模です。

資源としては存在しても、まだ中国には遠く及びません。

サプライチェーン構築には年単位の時間がかかる

2026年5月、ReElementとPoscoが米国でレアアース・磁石生産の合弁事業に合意しました。総投資2億ドル、2028年に3,000トン、2030年に6,000トンという段階的な計画です。

日本でもJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構。鉱物資源の備蓄・出資・助成を担う独立行政法人)が、豪州マウントウェルドへ2011年から出資を続けています。ただし現場目線では、工場が立ち上がっても部品メーカー認定に1〜2年、商社経由の取引設定にさらに半年〜1年はかかると見るのが無難です。
投資の発表と、調達網へ組み込める時期には大きな時差があります。

「外す」より「比率を下げる」が現実的な理由

豪州や米国があるなら、いっそ中国製を全部外せば

これには無理があります。中国製を外す選択は、NIL(Not In List:承認図面に載っていない部品。代替には承認手続きが必要)問題、コスト上昇、品質リスクが重なり、現場の負担が一気に増えがちです。

だからこそ、デュアルソース(同じ部品を2社以上から並行調達する戦略)で比率を調整する発想に意味があります。

これを踏まえ、明日から打てる3つの点検を示します。手を動かす順番が大事です。

1番目は、原産地ヒアリングです。
サプライヤー(一次取引先の品質保証または営業窓口)に、文書で4項目を照会します。
対象部品名・型番、含有レアアース元素名(ネオジム・ジスプロシウム等)、精製地(加工国)、磁石製造メーカー名の4点です。

照会文は「中国のレアアース輸出規制を踏まえた供給リスク把握の社内調査として…」と切り出すと角が立ちません。

2番目は、デュアルソースの机上評価です。
調達金額の上位10品目を評価します。
「切り替え可能性のある品目はどれか」を見極める作業に絞ります。優先順位がつけば、次の一手が打てます。

3番目は、政策モニタリング担当の指名です。
JOGMECの備蓄制度、重要鉱物助成金、経済安全保障推進法(2022年成立の日本の法律。重要鉱物の安定供給を国が支援する根拠法)の動向を、月次で追います。

まとめ

報告1スライドに転用できる形で以下のように整理します。

課題は、中国精製91%という構造的依存。
インパクトは、2025年規制で対象が部品・設備まで拡大したこと。
3点検は、原産地ヒアリング、上位10品目のデュアルソース机上評価、政策モニタリング担当の指名。
期待効果は、3ヶ月で自社のレアアース依存比率を可視化し、経営報告の根拠を確立すること。

この「課題→インパクト→3点検→期待効果」が、そのまま1枚のスライドになります。

中長期では、2030年代に米国・豪州の精製能力が立ち上がり、地域分散が進むと期待されています。
ただし恩恵を受けられるかは別問題。いまから社内の情報共有体制と意思決定経路を整えた企業だけが、選択肢を手にできます。

部下との1on1なら、次の3問が議題になります。
自社の調達品目のうち、レアアース含有が想定されるのは何品目か。
サプライヤーに精製地を聞いて、すぐ答えが返る体制か。
デュアルソース化に許容できる追加コストと期間の社内基準は決まっているか。

職場でいくつ即答できるでしょうか。

この記事を書いた人

大手電機メーカーの現役バイヤー(調達歴20年超)。中小企業診断士。Udemy講師。現場の実務と経営の視点で、資材調達の「なぜ?」を解き明かします。

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