「なんでウチの設計はいつもギリギリで仕様変更を…!」
そんな風に、デスクでため息をついたことはありませんか?
エース設計者の田中さんから内線が鳴った瞬間から、私の「社内調整」に対する考え方は根底から覆されました。
この記事は、部門の壁に挟まれ、まるで霧の中を手探りで進むように孤独を感じているあなたのために書いたものです。
この記事であなたが得られること
・部門間の対立を「協力関係」に変える具体的な交渉術
・あなたの市場価値を高める「社内外交」という新しい視点
・理不尽な要求を切り返し、精神的な余裕を取り戻すための防御策
【絶望の始まり】そもそも、なぜ「社内外交」が必要不可欠なのか?

結論から言えば、部門間の対立を放置することは、あなたのキャリアにとって致命的なリスクになるからです。
多くの会社は、設計、製造、営業といった機能別に組織が作られています。
これは専門性を高める上では合理的。
しかし、副作用として各部門が自分の領域の目標達成を最優先する「部門最適」というワナに陥りがち。
各部門の「正義」を理解する
設計: 最高のスペック、最新技術の追求
製造: 生産計画の安定、効率の最大化
営業: 顧客満足度の向上、売上目標の達成
それぞれの正義がある。
しかし、資材調達のミッションである「QCD(品質・コスト・納期)の最適化」は、これらの部門最適と真正面から衝突します。
部門間の連携がうまくいっていない組織では、情報の共有が滞り、トラブル時に孤立しやすくなります。
結果として、対応の遅れやミスが重なり、プロジェクト全体に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。
最悪の場合、責任の押し付け合いが始まり、あなたの評価と精神がすり減っていくだけです。
だからこそ、私たちは意識的に「社内外交」を展開し、部門の壁を乗り越える必要があるのです。
【実録】地獄の部門間調整、そのリアルと処方箋

さて、ここからは私が実際に体験した、胃がキリキリするような事例と、それをどう乗り越えたかの処方箋をお話しします。
vs 設計部門:「またか…」を乗り越える2つの交渉術
設計部門との関係は、資材調達にとって永遠のテーマかもしれませんね。
サプライヤーとの直接コンタクトによる混乱
新製品のキーパーツに最適だと考え、設計部門に新規サプライヤを紹介しました。
当初は感謝され、満足感を覚えていました。
しかし、1ヶ月後。ふとサプライヤーの営業担当から電話が。
「いやー、御社の設計の田中さん、すごい熱心で。
昨日も電話があって『ここの公差、もうちょっと詰められへんか?』て。
コスト度外視の要求で、正直ちょっと困ってまして…」
びっくりしました。私が知らないところで話が進み、コストも納期も管理外に置かれ、今にも注文が決まったかのようです。
慌てて田中さんに確認すると、「技術的な話は直接した方が早いじゃないですか」と、悪びれる様子もない。
完全に預かり知らぬところで話が進んでいたのでした。
この失敗から学んだ教訓は、「情報の窓口」としての価値を自ら提示し続けなければならない、ということです。
以来、新しいサプライヤーを紹介する際は、必ずこう伝えるようにしました。
「細かな技術的な協議は直接してもらって大丈夫です。
ただ、コストや納期に関わる話は、必ず私を通していただけますか?
サプライヤーとの価格交渉や納期管理は、私が必ずお役に立てますので」
役割分担を明確に宣言する。
これで、多くの混乱は未然に防げるようになりました。
【実践編】後出しジャンケン仕様変更へのカウンター
例の田中さんとの、もう一つの戦いです。
別の製品の量産金型をサプライヤーに発注した、まさにその翌日でした。
「ごめん!やっぱり強度を上げるために、ここにリブ(補強)を1本追加したい!」
以前の私なら「またか…!」と感情的になっていたでしょう。
しかし、失敗から学んだ私は冷静でした。
まず、即答で「NO」とは言いません。
田中さんの「より良い製品を作りたい」という想いは本物だからです。
「なるほど、変更はもちろん可能です。
サプライヤーに確認したところ、金型修正で追加費用が約80万円、納期が3週間遅延するとのことです。
この影響について、来週のプロジェクト会議で、田中さんの口から一緒にご報告いただくことは可能でしょうか?」
感情的に責めるのではなく、変更に伴う「事実(コスト・納期)」と「責任」をセットで、淡々と提示する。
ボールを相手に返すのです。
こうすることで、設計者も「自分の変更が全体に与える影響」を客観的に認識せざるを得ません。
結果、その仕様変更は見送られ、代替案を一緒に考えるという、より建設的な関係に進むことができました。
vs 製造部門:「前例がない」の壁を突破する説得術

製造部門とのキーワードは、なんといっても「安定稼働」。
変化を嫌う彼らを動かすのは骨が折れます。
中国のサプライヤーと協力し、あるプレス部品の工法を変更することで、15%のコスト削減が見込めるVA提案を立案しました。
年間削減額は300万円以上。これは大きな成果になるぞ、と期待に胸を膨らませていました。
すると製造部の佐藤部長から、
「実績がない工法は品質が不安だ。第一、そのためにウチの生産ラインの段取りを変えるのは面倒だ」
典型的な抵抗勢力です。ここからが私の腕の見せ所でした。
正論でぶつかっても無駄。彼らの「不安」と「面倒」を一つずつ、物理的に潰していくしかない。
製造部門説得の2ステップアプローチ
1. 不安の解消:
「まずはテストラインで、100個だけ試作させてください。
もちろん、評価に必要なデータは全てこちらで準備します」
2. 面倒の排除:
「ラインでの評価日程は、佐藤部長のご都合に全て合わせます。
必要な治具の手配も、サプライヤーと協力して私の方で進めます」
相手の懸念を先回りして潰し、「あなたはGOサインを出すだけです」という状態を作る。
そして、削減効果である年間300万円が、製造部門のコスト削減目標達成にも貢献できるという「共通のメリット」を粘り強く伝え続けました。
結果、導入までに1年近くかかりましたが、この成功体験は「面倒な提案でも、最後までやり切れば会社に貢献できる」という大きな自信になりました。
vs 営業部門:「決定事項だから」という丸投げを切り返す共闘術
営業部門は、会社の売上を支える花形。彼らの「顧客第一」は正義です。
しかし、時にその正義が、無茶な要求となって我々に襲いかかります。
「A社から新規受注、決まったぞ!
とにかく、お客さんとこの納期と金額でやることになったから、あとはよろしく!」
営業のエース、鈴木さんから意気揚々と告げられた言葉に、私は眩暈がしました。
提示された納期は、金型の製作リードタイムを完全に無視したもの。
金額も、既存の類似品より20%も安い。
このままでは現場が混乱し、品質にも影響が出かねません。
そこで私はまず、営業の功績を素直に認めることから始めました。
「鈴木さん、大型受注おめでとうございます!
素晴らしいですね!」
まず、相手の目標達成を肯定し、同じ方向を向いている姿勢を示す。
その上で、現実的な代替案を提示しました。
「実はご提示の納期では、金型製作が間に合いそうにありません。
そこで、初期ロットだけ既存金型を改造して対応し、2か月後から本番金型での量産に切り替えるというスケジュールを客先へご提案いただけないでしょうか?」
「無理です」ではなく「代替案(オプション)」を提示すること。
さらに、一人でがんばってもらうのではなく、一緒に解を探すというスタンスを取ることが大切です。
鈴木さんは「一緒に顧客を説得してくれるパートナーだ」と認識してくれました。
結果、顧客も分割納入案を受け入れてくれ、無理な生産で品質を落とすことなく、大きな受注を成功させることができたのです。
まとめ:社内外交スキルは、AIに奪われない最強の武器になる

さて、ここまで私の実体験を交えながら、部門間の壁を乗り越える「社内外交」についてお話ししてきました。
面倒で、時に理不尽な部門間調整。
しかし、このスキルこそが、これからの時代を生き抜くための強力な武器になります。
今すぐできる!最初の一歩
Step1:
まずは、一番ニガテ意識のある他部門の担当者との会話を思い出してみてください。相手はどんな言葉を使い、何に困っているように見えましたか?
Step2:
次にその担当者と話す時、「あなたの部署の目標は何ですか?」と、相手の「正義」を尋ねてみましょう。
Step3:
そして、この記事で紹介した処方箋の中から、一つでも良いので試してみてください。「無理です」を「代替案」に言い換えるだけでも、世界はきっと変わって見えるはずです。
定型業務がAIに代替されていく未来、このような人間臭い交渉や調整、関係構築の能力は、あなたの市場価値を飛躍的に高めるでしょう。
それは単なる「社内調整」ではなく、会社に利益をもたらし、あなた自身を守り、成長させるための高度な「サバイバル術」なのです。
この記事が、あなたの明日からの資材調達業務の、小さな一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
