先輩、サプライヤーに完成品を持ってきてもらうのって、アリですか?検品も立ち会ってもらってますし。
……要確認だぞ。もしかして、運送費払ってないんじゃない?
それ、2026年の今だと勧告くらうかもしれないよ。
資材調達・購買に携わるあなたが、「うちの取引は長年の付き合いだから問題ない」と思っているなら、この記事を最後まで読んでみてください。
公正取引委員会が発表した令和6年度の勧告件数は21件で過去最多。指導件数は8,230件にのぼります(出典:公正取引委員会令和6年度)。
そして2026年2月20日、日産東京販売が公正取引委員会から勧告を受けました。
下請事業者25社に、自動車2,808台の運搬を無償で行わせていた件です。
このニュースを見た瞬間、ぞわっと鳥肌が立った調達担当者も多いのではないでしょうか。
「これ、同じ構図の取引をしている会社、相当あるぞ」と。
この記事はこんな方におすすめ
・サプライヤーへの発注・管理を日常的に行っている中堅バイヤー
・「うちは大丈夫」と思いつつも、部下の業務が法令違反を起こしていないか不安な管理職
・2026年1月施行の「取適法」改正にまだ対応できておらず、実務レベルのチェックリストが欲しい方
2,808台を無償で運ばせて勧告——日産東京販売の衝撃
2026年2月20日、公正取引委員会が日産東京販売に勧告を出しました。
車体整備を委託する下請事業者25社に対し、修理済み自動車2,808台の運搬を無償で行わせていたのです。
期間は2024年8月から2025年7月の約1年間。
このニュースに対して、「え、これアウトなの?」と感じた方もいるかもしれません。
ただ、同じような取引慣行を「業界の常識」として疑いすら持っていない会社は少なくないでしょう。
日産東京販売がたまたま特殊だったのではなく、構造的に同じリスクを抱えている企業が、まだたくさんあると感じています。
注意:「業界では昔からこうやっている」という慣習こそが、違反の温床になります。
10年の経験は、裏を返せば10年分の「慣習バイアス」かもしれません。
そして時代は動きました。
2026年1月1日、下請法は「取適法(中小受託取引適正化法)」に生まれ変わっています。
改正のポイントは大きく3つ。
適用対象が従業員基準でも判定されるようになったこと、手形払いが原則禁止になったこと、そして協議に応じない一方的な代金決定が明確に禁止されたこと。
規制の網が、ぐっと広がりました。
ここからは、経験豊富な中堅担当者ほどハマりやすい5つのNG行為を解説します。
NG行為①「運搬・保管はそっちでやって」——無償役務の強制
「見本品は御社で持ってきてください。(当然、送料もそちら負担で)」って、メールしちゃってます……。
こんなやり取り、心当たりはありませんか?
取適法は、「不当な経済上の利益の提供要請」を禁止しています。
本来は対価が発生する業務——運搬、保管、検査、梱包など——を無償で行わせる行為がこれにあたります。日産東京販売の事例がまさにこれです。
もう一つ見逃せないのが、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(TCD)の事例。
2024年7月5日に公正取引委員会から勧告を受けた同社は、下請事業者に664個の金型を無償で保管させていました。
「金型はうちの財産だから預かっておいて」。
保管コストは全部、下請事業者の持ち出しです。
実のところ、かつてはサプライヤーへ治具を預けたまま、保管料の話を一度もしない状態が続いていたこともあるでしょう。
そのモデルの製造が終わっても、サービスパーツで再発注されるかもしれませんから。
今思えば冷や汗ものです。
- サプライヤーに「完成品はこちらまで届けてね」と言っているのに、運搬費を払っていない
- 金型や治具を「とりあえず保管しておいて」と預けたまま、保管料を払っていない
- 検品の立ち会いや技術支援を無償で依頼している
一つでも該当したら、まず契約書に「役務の内容と対価」を追記するところから始めてみてください。
NG行為②「来月まとめて払うから」——支払遅延の罠
令和6年度の公取委の実体規定違反7,177件のうち、57.0%が支払遅延で4,094件。ぶっちぎりの1位です。
「検収作業が立て込んでいまして、処理が追いつかなくて……」
現場で起きるのは、検収処理が滞る、月末の事務作業が追いつかない、書類を紛失した、承認フローに時間がかかる——そういう”業務上のボトルネック”が原因の支払遅延です。しかし、悪意がなくても結果として60日を超えれば、それは違反になります。
取適法では、下請代金の支払期日は「受領した日から60日以内」と定められています。改正で手形払いも原則禁止になりました。手形で3ヶ月後に現金化——もう通用しません。
「支払遅延って金額が少なければ見逃してもらえるのでは?」と思った方へ。
答えはNoです。1件でも遅れれば違反です。
公取委は令和6年度に親事業者90,000名・下請事業者330,000名、合計420,000名を対象に定期調査を実施しています。対象になる確率、決して低くありません。
やるべきことはシンプルです:
- 全サプライヤーへの支払条件を一覧化する
- 60日を超えている取引がないか確認する
- 手形払いが残っている場合は、現金振込への切り替えスケジュールを決める
NG行為③「検査してないけど不良品だから返品ね」——不当な返品
返品は品質管理の一環。それ自体は問題ありません。問題になるのは、根拠があいまいな返品です。
TCDの事例をもう一度見てみましょう。
同社は納品時に品質検査を行っていなかったにもかかわらず、後から「不良品だった」として返品を行っていました。検査基準が契約書に明記されていないケース、実はめちゃくちゃ多いんです。
個人的には、ここが一番怖いと思っています。
私が以前関わったプロジェクトでも、「不良品の定義」がチーム内でバラバラでした。色味の違い? 寸法の誤差±0.1mm? 機能の問題? 線引きがあいまいだと、返品のたびにサプライヤーとの関係がギクシャクします。
「でも、実際にクレームが入ったから返品したんだ」——そう反論したくなる気持ちはわかります。
ただし、下請事業者の責任に帰すべき理由がなければ違法になります。
受領後に「なんとなくダメだった」は通りません。
重要ポイント:返品を「セーフ」にするための3条件
- 契約書に検査基準(色・寸法・機能の許容範囲)を明記する
- 返品期限を設定する
- すべての返品を「返品票」で記録し、理由を個別具体的に残す
NG行為④「仕様変えたけど代金はそのままで」——追加費用の踏み倒し
「ちょっと色を変えたいんだけど、代金はそのままでいける?」って言ったことある?
耳にすると、ヒヤッとする一言です。
「ちょっとした変更」が積もると、サプライヤーにとっては大きなコスト負担になります。
金型の修正、材料の変更、納期の調整。それぞれに工数がかかっているんです。
KADOKAWAの事例がわかりやすいでしょう。
2024年11月12日に勧告を受けた同社は、雑誌の記事・写真を制作する下請事業者(ライター・カメラマン等)の報酬を最大39.4%一方的に引き下げました。差額は合計約590万円です。
「業界全体の構造変化に対応するため」という理由でしたが、公取委は認めませんでした。
親事業者の経営事情は、代金引き下げの正当な理由にはなりません。
資材調達の現場に置き換えると、こうなります。
「急な設計変更が入ったけど、追加費用は見積もってない。サプライヤーも文句を言わないから、まあいいか」
取適法の改正で「協議に応じない一方的な代金決定」が明確に禁止された今、これは完全にNGです。
仕様変更が発生したら
- まず見積を取る。どんなに小さな変更でも
- 見積が承認されるまで変更作業を開始しない
- 変更指示は書面で記録を残す(口頭指示はグレーの温床です)
NG行為⑤「協力金」「割戻金」という名の搾取——複数名目の不当減額
ここが最も金額のインパクトが大きい違反です。
2025年2月28日、ビックカメラが勧告を受けました。約50社の下請事業者に対し、「販売支援金」などの名目で計約5億5千万円を不当に減額していたんです。
さらにインパクトがあるのは日産自動車。2024年3月7日の勧告では、36社に対して約30億2,367万円の不当減額が認定されました。下請法違反としては過去最高額です。「割戻金」という名目をつけていましたが、実態は一方的な代金カットでした。
「協力金」と「不当減額」の境界線はどこにあるのか? これは私もずっと悩んできたテーマです。
特に危険なのは、売上に対して自動的に○%を差し引くパターン。これは「協力金」とは呼べません。
今すぐやるべきこと
- 自社の全減額名目をリスト化する(協力金・販促費・品質向上費・キャッシュバック…)
- 各名目に「支払根拠」があるか確認する
- 根拠がない項目は、サプライヤーとの再協議を開始する
まとめ:月曜の朝イチにやるべき3つのこと
ここまで5つのNG行為を見てきました。もう一度整理します。
「知らなかった」は通用しません。
令和6年度は勧告21件で過去最多。5つのNG行為——無償役務、支払遅延、不当返品、追加費用の未払い、名目を変えた減額
どれも「昔からやっている」とスルーしてしまいがちなものばかりです。
対策の基本は3本柱。契約書への明記、支払条件の見直し、定期的なセルフチェック。
月曜日の朝、まずこの3つに手をつけてみてください
- 支払条件リスト作成
全サプライヤーへの支払サイクルを一覧化して、60日超がないか確認しましょう。 - 無償役務リスト作成
「サプライヤー負担」になっている運搬・保管・検査をすべて書き出してみてください。一つでもあれば、まず対価の協議から始めましょう。 - 契約書テンプレートの確認
運搬費・返品基準・仕様変更時の追加費用が明記されているかチェックしてみてください。
合計30分。コーヒー1杯ぶんの時間で、自社のリスクの全体像が見えてくるはずです。
取適法の時代、「知っている」と「やっている」の差がそのまま会社のリスクになります。
今日知ったなら、明日には動きましょう。あなたの取引先との関係をより健全にするための第一歩は、きっと想像よりずっとシンプルだと思います。
