なんでウチの調達は、がんばってるのに評価されないんだ…?
KPIが、いつの間にかチームを縛りつけるカチカチの管理ツールになっていませんか?
この記事であなたが得られること
・チームが自ら考え、動き出す「自走するKPI設定」の3つの基本原則
・部下の成長を劇的に加速させる、具体的なフィードバック術
・二度と失敗しないための、KPI運用の「よくある罠」とその回避策
やる気を削ぐだけのKPI設定、あなたのチームは大丈夫?

多くの会社で導入されているKPI設定は、良かれと思ってやっているにも関わらず、むしろ現場のモチベーションを静かに、しかし確実に削いでしまっています。
タイの製造拠点で購買マネージャーをしていたAさんの事例をご紹介します。
当時の経営陣から降りてきたのは、「全社一丸となってコスト削減!」という大号令。
当然、Aさんたち調達部門には「対前年比マイナス5%のコスト削減」という、非常に分かりやすいKPIが設定されました。
1年後に起きた悲劇
❌コスト削減のため、納期や梱包仕様をギリギリまで切り詰めた結果、後工程からのクレームが急増
❌目先のコスト削減のために長期契約の更新を見送った結果、翌年に原材料が高騰し、結果的に大損害
❌華々しい成果を勝ち取った業務を評価せざるを得ず、トラブルの予防や将来への種まきの業務は評価を小さくせざるを得ない
まさにKPIが「武器化」された瞬間でした。
数字は達成しているのに、チームはボロボロ。こんな状況、あなたもどこかで経験がありませんか?
チームが自走し始める「KPIマネジメント」3つの原則

あのタイでの苦い経験から、AさんはKPIとの付き合い方を根本的に見直しました。
そしてたどり着いたのが、チームを「管理」するのではなく「支援」するための、以下の3つの原則です。
成功する3つの原則
・結果ではなく「プロセス」を管理する
・KPIを対話の「ツール」として使う
・定性的な「隠れた貢献」も評価する
これらは机上の空論ではありません。
数々の現場で試し、チームが劇的に変わるのを目の当たりにしてきた、実践的な哲学です。
原則 1:結果を追うな!「プロセス管理」こそが最強の武器だ
とはいえ、結果が全てじゃないか!
そう思う気持ち、痛いほど分かります。私もそうでしたから。
しかし、管理職である私たちが本当にコントロールできるのは、「結果」そのものでしょうか?
例えば「コスト削減率」というKPI。
これは為替の変動や市況といった、私たちではどうにもならない外部要因に大きく左右されます。
こんな不確かなものに左右される目標に掲げられても、メンバーは「運ゲーじゃないか…」と感じてしまう。
そこで重要になるのが、結果に至るまでの「行動(プロセス)」に目を向けることなのです。
▼プロセス管理に有効なKPIの例
| 指標の名称 | 計算式 | この数字から何が見えるか? |
|---|---|---|
| 納期遵守率 | (納期内に納品された注文件数 / 総注文件数) × 100 | サプライヤーの信頼性だけでなく、自社の発注プロセスの安定性も見えてくる。 この率が低い場合、無理な納期設定をしていないか?と自問すべき。 |
| 発注サイクルタイム | 平均(発注発行日 – 購買依頼日) | 購買依頼が出てから発注までにどれだけ時間がかかっているか。 この時間が長いなら、社内の承認プロセスにボトルネックが潜んでいる可能性が高い。 |
| 代替サプライヤー確保率 | (代替サプライヤーが確保されている重要品目数 / 重要品目総数) × 100 | これは未来への投資を測る指標。 目先のコスト削減には直結しないが、この率を高める活動こそが、不測の事態から会社を守る「真のコスト削減」に繋がる。 |
これらのKPIは、すべてチームの「行動」によって改善できるものばかり。
外部要因のせいにできないからこそ、メンバーは当事者意識を持ち、自ら改善策を考え始めるのです。
原則 2:1on1が変わる!KPIは「対話のツール」だ
KPIシートを前に、こんな1on1をしていませんか?
(ダメな例)
君の担当サプライヤー、納期遵守率が目標の95%に対して92%だな。なぜ未達なんだ?来月までにどうやって達成するんだ?
は、はい…申し訳ありません。改善します…
これでは、ただの「詰問」です。
部下は萎縮し、思考停止に陥るだけ。
KPIは、部下を問い詰めるための証拠書類ではありません。
二人の目線を合わせ、未来に向けた作戦を練るためのツールなのです。
(良い例)
この納期遵守率92%という数字、一緒に見てみようか。
ここから何が見えると思う?
そうですね…
A社からの部品で遅れが多発しているのが、全体の数字を押し下げています
なるほど。A社で何が起きているんだろう?
何かサポートできることはあるかい?
A社の上層部に納期改善依頼をしたいのですが、実は、A社の課長が最近変わって…。
一度、私と一緒に訪問してもらえませんか?
いかがでしょう?
良い例では、上司は答えを与えるのではなく、問いを投げかけています。
KPIという客観的な事実を基に、「なぜそうなっているのか(現在地の分析)」と「次にどうすべきか(ルートの探索)」を、部下自身に考えさせているのです。
客観的なデータ(KPI)を提示することで、感情的なお説教ではなく、部下の成長を促す建設的な対話が生まれるのです。
原則 3:数字にこそ現れない「隠れた貢献」を評価せよ
最後に、最も重要かもしれない原則です。
それは、KPIでは測れない貢献を、決して見逃さないこと。
海外の製造拠点にBさんという、非常に優秀な現地の女性スタッフがいました。
彼女は、コスト削減率や納期遵守率といった定量的なKPIは、正直言ってチームの平均レベルでした。
しかし、彼女には誰にも真似できない強みがあったのです。
それは、トラブルが起きた時の火消し能力。
あるサプライヤーで大規模なストライキが起きた時も、彼女が粘り強く現場と交渉し、たった一人で生産ラインの停止を回避してくれました。
もしKPIシートだけで彼女を評価していたら、きっと「平均的なスタッフ」という評価しかできなかったでしょう。そして、おそらく彼女は会社を去っていたはずです。
この経験から、私は評価面談で必ず以下の「定性評価項目」について話し合うようにしました。
定性評価項目の例
・プロセス改善への貢献:
業務フローの改善を提案・実行したか?
・ナレッジ共有:
後輩の指導や、チームのための資料作成を行ったか?
・部門横断での協力:
他部門と粘り強く連携し、問題を解決したか?
・戦略的イニシアチブ:
担当業務以外のプロジェクトを、当事者意識を持って推進したか?・
KPIは万能ではありません。
数字に表れない「ファインプレー」をすくい上げ、正しく評価してこそ、メンバーは安心して挑戦し、チームは本当に強くなるのです。
結論:KPIは管理ツールではない、チームを育てる「対話の羅針盤」だ

これまでお話ししてきたように、KPI設定で本当に大切なのは、小難しい指標の定義や計算式を覚えることではありません。
KPIを、チームを縛る「管理の鎖」から、未来を指し示す「対話の羅針盤」へと変えること、ただそれだけです。
この記事を読んでくださったあなたが、明日からすぐにできることがあります。
1. まず、自部門のKPIリストの中から、一番形骸化していると思うものを1つだけ選んでください。
2. そのKPIが、なぜメンバーのやる気を削いでいるのか?
この記事で紹介した「失敗パターン」に当てはまっていないか、胸に手を当てて考えてみましょう。
3. そして、次の部下との1on1で、そのKPIシートを置き、こう問いかけてみてください。
「この数字、君はどう思う?」と。
きっと、部下の口から、あなたが今まで気づかなかった現場のリアルな課題や、改善のヒントが語られるはずです。
その対話の瞬間こそが、あなたのチームが再び力強く成長し始める、記念すべき第一歩になるでしょう。
KPIを武器に、最強の調達チームを作る旅へ、さあ一緒に出発しましょう!
