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知らないと損する!米国トラック25%関税でサプライチェーンを守る調達戦略と実務対策

米国のトラック関税?
うちの会社、トラック作ってないし関係ないでしょ?

もしそう思っていたら、少しだけ時間をください。
この米トラック関税は、多くの日本企業にとって、じわじわとサプライチェーンの首を絞める、見えにくい脅威なのです。

こんな方におすすめ
・自動車・機械・電子部品メーカーで資材調達を担当している方
・米国駐在の資材調達担当、本邦でグローバル調達戦略担当の方
・サプライヤー管理やコスト削減をミッションとするマネージャーの方
・「地政学リスク」という言葉に、漠然とした不安を感じている経営層の方

▼この記事で得られること

・今回の関税が、自社のコストや納期にどう影響するかの具体的なイメージ
・明日から現場で使える、担当者レベルの緊急アクションプラン
・会社を守るために管理職が今すぐ検討すべき、中長期的な調達戦略の視点

目次

【衝撃の事実】対岸の火事ではないサプライチェーンへの影響

2025年11月1日から、米国が輸入される中・大型トラック(車両総重量約5トン超)に25%もの追加関税を課すことを発表しました。

この決定の根拠は「通商拡大法232条」。
これが何を意味するか?

単なる経済的な措置ではなく、「米国の国家安全保障を脅かす」という大義名分を掲げた、極めて強力な保護主義政策だということです。

過去の例を見ても、1964年に発動された小型トラックへの25%関税(通称:チキン・タックス)は、なんと60年以上経った今でも続いています。

つまり、今回の措置も「どうせすぐ終わるだろう」と高を括るのは非常に危険なのです。

「うちはトラック部品を扱っていないから大丈夫」は危険な思い込みです。
サプライチェーンの川上から川下へ、関税の影響はドミノ倒しのように波及します。

想像してみてください。
日本の完成車メーカーA社が米国にトラックを輸出していたとします。
25%の関税が課されれば、1台1,000万円のトラックなら、コストが250万円も跳ね上がります。

A社はこのコストを吸収するため、部品を供給するTier1サプライヤーのB社に「5%の値下げ」を要求するかもしれません。

すると今度は、B社がそのしわ寄せを吸収するために、さらにその先の電子部品や特殊鋼を供給するTier2のC社(あなたの会社かもしれません!)に「3%の値下げ」を要請してくる…

こんな風に、関税の衝撃はまるでドミノ倒しのように、サプライチェーンの末端まで及ぶのです。
これを「ブルウィップ効果」と呼びます。

2008年のリーマンショック後の急激な円高の時、当時、主要顧客から「為替差益還元のお願い」という名の、事実上の値下げ要求が殺到したのを今でも覚えています。

理由は違えど、川上のコスト増が川下への圧力となって襲いかかってくる構図は全く同じ。今
回の関税も、決して他人事ではないのです。

【即効性あり】担当者のための緊急アクションプラン

じゃあ、一体何から手をつければいいんですか!?

そんな声が聞こえてきそうですね。
大丈夫です。パニックになる必要はありません。

まずは落ち着いて、足元を確認することから始めましょう。

最初の1週間でやるべきこと

まず、状況を正確に把握し、リスクを洗い出すことです。

  • サプライヤーへの影響度ヒアリング

    主要サプライヤー、特に日本や欧州からの輸入品を扱う企業に連絡を取り、「今回の関税で御社にどんな影響が出そうか?」を具体的に聞いてみましょう。
    彼らも情報収集中かもしれませんが、問題意識を共有するだけでも価値があります。

  • 契約内容の再確認

    もしあなたが米国駐在の調達担当なら、サプライヤーとの売買契約書を引っ張り出してきてください。
    特にチェックすべきは「インコタームズ(貿易条件)」です。
    もし契約が「DDP(Delivered Duty Paid)」になっていたら要注意!これは「関税込み持込渡し」を意味し、輸入関税の支払義務は売り手(サプライヤー)側にあります。
    「よかったー、うち(米国の買い手)は関係ないわ-」で終わりません。
    早晩、価格交渉を受けたり、関税をかぶったままだと事業撤退・取引停止などサプライヤリスクがあります。

  • 社内での情報連携

    この問題は調達部門だけで抱え込んではいけません。
    複雑な契約条件の場合は、法務部には契約書のレビューを、設計・品質保証部には代替部品の可能性について、経理部にはキャッシュフローへの影響を、それぞれ情報共有し、会社全体の問題として動き出す体制を作りましょう。

米国拠点の話にとどまらず、日本でも輸入案件で、インコタームズで痛い目に遭うことはあります。
買い手にとって一番安全なDDPであってもです。

例えば、通関で予期せぬトラブルが発生し、貨物が数週間も港で足止めされたのです。
その間の倉庫保管料やペナルティ、契約上すべて売り手である海外のサプライヤー負担。
買い手は助かりますが、サプライヤーはカンカンに怒り、その後の関係修復に大変な労力を要します。

今回の関税問題も同じです。
サプライヤーとの交渉では、リスクの押し付け合いではなく、「関税という共通の課題に、一緒に立ち向かいましょう」という協力のメッセージを発した方が長期的な関係を維持することができます。

【未来への羅針盤】マネージャーのための戦略的視点

現場担当者が目の前の火消しに走る一方で、マネージャーや管理職は、もう少し高い視座から、この変化を乗りこなすための中長期的な調達戦略を練る必要があります。

過去の貿易摩擦の初期の頃、「どうせすぐ終わるだろう」という楽観論もありました。
結果、代替サプライヤーの確保に出遅れ、数ヶ月間、高値でのスポット購入を強いられる羽目にもなるかもしれません。

シナリオプランニングで不確実性を乗りこなす

未来は誰にも予測できません。
だからこそ、複数のシナリオを想定し、それぞれに備える「シナリオプランニング」が有効です。

シナリオ想定状況対応戦略
シナリオA
(恒久化)
関税が長期化すると想定サプライチェーンの北米域内への本格的なシフト
(リショアリング/ニアショアリング)を計画する
シナリオB
(短期で撤回)
政権交代などで
数年内に撤回されると想定
大規模投資は避け、FTZ(外国貿易地域)
の活用などで一時的に凌ぐ
シナリオC
(対象拡大)
乗用車や補修部品にも
関税が拡大する最悪のケース
サプライチェーンの完全なブロック化
(地域内完結型)を検討する

これらのシナリオごとに、自社が取るべきアクションを具体的に描き、経営層に提言するのです。

関税回避の切り札「USMCA」を使いこなすが、制度変更の状況に注視する

今回の関税を合法的に回避する、最も強力な武器がUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)です。
簡単に言えば、製品を構成する部品や加工費のうち、一定の割合以上が北米域内(米国、メキシコ、カナダ)のものであれば、「北米産」と見なされ、関税がかからなくなる、というルールです。

鍵を握るのがRVC(Regional Value Content=域内原産割合)。
トラックの場合、このRVCが64%以上(正味価額法の場合)であることが求められます。

計算が難しそう…

計算方法の詳細は割愛しますが、ポイントはこうです。

計算ステップやること
① 情報収集サプライヤーから全部品の「原産地証明書」と「価格」を入手する
② 計算式RVC(%) = (製品の正味価額 – 非原産材料費) ÷ 製品の正味価額 × 100
③ 結果計算結果が 64% を超えれば、晴れて関税ゼロ!

例えば、製品コストの30%を占めるエンジンを、日本産からメキシコ産に切り替えるだけで、RVCは劇的に向上します。

さらにUSMCAには「ロールアップ」という強力なルールがあり、エンジン自体がRVCを満たせば、そのエンジンは「100%北米原産」として計算できるのです。

このUSMCAによる抜け道は米国の知るところ。
早速メキシコ・カナダと条件変更の交渉をしているとの報道もあります。
今後の状況を注視する必要がありますね。

結論:嵐の中でこそ、調達の真価が問われる

今回の米トラック関税は、単なるコスト増の問題ではありません。

それは、これまで当たり前だと思っていたグローバルなサプライチェーンのあり方が、根底から揺らぎ始めたというサインに他なりません。

この嵐を乗り切るために、今すぐできることは何でしょうか?

  • 自社製品とサプライヤーの「関税影響リスト」を作成する
  • 主要サプライヤーとの契約書、特に「インコタームズ」を再確認する
  • 社内の関係部署(法務、設計、経理)と対策ミーティングを設定する

変化の波にただ翻弄されるのではなく、その波を乗りこなす戦略的な調達部門こそが、これからの企業の生命線を握っています。

この危機は、あなたの調達スキルと戦略的思考を次のレベルに引き上げる、またとない機会です。

さあ、今日から行動を始めましょう!未来は、あなたのその一歩にかかっています。

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